第259期 #4

空想少女と空腹少女

 空想少女は、ポテトチップスを食べていた。
 でも、割れたポテトチップスの尖った部分が歯茎に刺さって、血の味がしてきた。
「普通はポテチが歯茎に刺さるなんてありえないでしょ? でも、すごく面白いからアイデア採用!」
 パソコン画面の前でそう興奮気味に喋っているのは、空想少女の小説の作者。
 でも当の少女は、口の中の痛みや、勝手に空想でいろいろやらされる馬鹿らしさにうんざりしていた。
「少女は、出血した口の中を携帯で撮影し、ポテチの会社に苦情のメールを送った。すると一週間後、その会社は律儀に、謝罪の手紙と、お詫び代わりの新作ポテト商品を三つも送ってきた……。うわ、なんだか物語が広がりそうな展開だぞ!」
 空想少女は、新作のポテト商品を見て少し嬉しくなった。
 しかし、細長い形の“ポテ棒”というお菓子を口に入れると、今度は口の中の上側にその尖った部分が刺さって、血が出て、自分はやっぱり不幸な少女なんだと思った。
「少女は、また苦情を出そうかと考えたが、クレーマー扱いされるだけだろうと思って、口の中に広がる血の味をただ噛み締めた……。空想上の少女なのに、ちょっとした社会常識もあるなんて、キュンとくるポイントかも!」
 小説のクソ作者は、ポテト菓子が口の中に刺さる、という変な設定がお気に入りのようで、このままだと空想少女の口の中は傷だらけになってしまう。
「いつも口から血を流している少女は、吸血鬼じゃなくて、実はただのポテチ好きでしたというオチ、最高!」
 この作者は馬鹿かと空想少女は思ったが、少女はただの創作上の、文章上の存在でしかないからどうしようもない……。

「あ、このポテチ食べていい?」
 そう突然、空想少女に聞いてくる少女が現れた。
「あたしは空腹少女だから、目の前に食べ物があると全部食べてしまう少女なの。このポテチ食べていい?」
 この空腹少女もクソ作者の創作かと思って、空想少女は小説を確認したが、どこにも空腹少女なんて現れてこない。
「あたしは、美味しそうな食べ物を探して旅をしているだけで、あらゆる小説や創作物とは関係のない存在です。このポテチ食べていい?」
 ポテチなんていくらでも食べて下さい。私は作者のクソみたいな空想に付き合わされるだけの存在に絶望している少女です。
「空想することは人間の自由だけど……もぐもぐ、でも空想されるのが嫌なら、その作者を殺す自由もあるはずで……あ、何か刺さった」



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