# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | 水曜日の霜降り | 蘇泉 | 766 |
2 | プレゼント(裏) | 柴野 弘志 | 997 |
3 | パパのおかげ! | Dewdrop | 585 |
4 | 矢場 | 党豪傑 | 10 |
5 | さくさくしてて。ずるずるしてて。 | なこのたいばん | 639 |
6 | 絶対に、言葉を売ってはいけません | euReka | 1000 |
7 | 叫び | たなかなつみ | 996 |
密室の中に3人の男が目を覚めた。そしてどっかのスピーカーから変な声が届いた。
「おはようございます。あなた3人を拉致している者です。」
「っえ?」男3人はまだ事情を分かっていない様子。
「今は2050年。2023年にいるあなた3人を拉致し、タイムスリップさせまして、2050年に連れて来ました。そう、2050年の今では、タイムスリップの技術を持っております。紹介遅れましたが、ここは水曜日の霜降りという番組です。」
「え?水曜日の…ダウンタウンではなくて?」と1人の男が動揺している。
「そう。ダウンタウンの2人はもう引退されているので、今は霜降り明星の2人が番組をやっております。」変な声が説明している。そして、続けて、
「今は説を検証します。『2023年の人をタイムスリップさせたら、未来のことをどれくらい当てられるか!』という説です。では、検証開始!」
3人の男にクイズ番組の道具を配られた。そしてクイズが開始した。
第1問!「2050年に、空を飛ぶ車は、あるでしょう!YESかNOで答えなさい!」
ルールをわかった3人が、それぞれ答えた。YES2人で、NO1人。
第2問!「2050年に、AIDSは消滅されたでしょうか!YESかNOで答えなさい!」
YES1人で、NO2人。
第3問!「2050年に、日本代表はワールドカップ優勝できたでしょうか!YESかNOで答えなさい!」
YES1人で、NO2人。
こうして10問を答えさせた。
ここで変な声がまた登場。「お疲れさまでした。では今日の収録は終わります。あなた3人を2023年に戻します。今日は協力していただき、真にありがとうございました。番組の放送は、2050年12月14日となるので、答え合わせはそのとき!ぜひお楽しみに!」
密室が暗くなり、3人の男は意識がなくなり、タイムスリップマシンに搬送された。
尿意でふと眠りから覚めた。
便所で用を足しベッドに戻ると、時計は六時十一分を示している。
ベッドでは安らかな表情をした彼女が寝息を立てている。僕が寝ていた場所を向いて布団を胸にかき抱いているが、白い肌の背中はまる見えである。
今日は彼女の誕生日である。
昨夜ホテルに入ってから、プレゼントを渡しお祝いした。彼女に贈ったのは、「サマンサベガ」のハンドバッグだった。
これと決めるのには大いに時間がかかった。
彼女のファッションを観察して趣味趣向を把握し、さらに直接聞き出した。その情報を元にあらゆる店に出向いたが、全ての条件を満たす物は中々みつからなかった。
何日もかけて探しているうち、疲労はピークに達し妥協する考えがよぎった。
そんな時ネットで探していたら、まさに「コレだ!」という物を発見した。長い時間をかけてようやく選ぶべきものが決まったと思った。
ところがそれは型の古いもので、正規店での販売は終了していた。ここまで来て手に入らないと分かった時は大いに絶望した。
だが僕は諦めきれず、試しにメルカリで検索をした。すると、そのバッグが販売に出されている。しかしわずかに期待した新古品ではなく、やや使用感のある中古品であった。
画面と向き合った僕は悩みに悩んだ。
誕生日プレゼントに中古はいかがなものか。だがこれ以上理想的な物は見つかりそうもない。購入時の箱も付いているので、あとは上手くギフト包装すればイケるんじゃないか。追い詰められていた僕はそう考えた。
人に物を贈る時にこれほど不安を抱えたことはない。
彼女は満面の笑みで包装を解き、箱の中身を目にした瞬間、真顔になった。
その表情に僕はとてつもなく狼狽えた。
――バレたか。
思わず「ダメだった?」と聞くと、彼女はみるみる感動を湛え「これが欲しかったの」と言った。
この言葉で僕は纏っていた緊張から解かれた。だが、うす暗い部屋の灯りでまだ気付いていないだけかもしれないという不安は拭えなかった。
そこで体を重ねた時におもむろにバッグを彼女の頭に敷いて、少しでもくたびれている理由を作ろうと試みた。この奇行にはさすがの彼女も「え、なんで」と言い、僕は「いや……フェチなんだよ」と苦し紛れの言い訳をした――。
バッグはベッド脇のテーブルに置き直されている。
僕はそれを手に取って彼女の開いた背中に下敷きになるように、そっと差し込んだ。
「今度のおうち、狭いね」
小さな娘が遠慮無く感想を述べると、パパは苦笑いしました。
確かに、今度の賃貸物件は小さく狭いものでした。すきま風も吹き込んで、奇妙なゆらめきを見せています。
「ねえパパ、何かいきもの飼っていいの?」
「いいよ」
パパは、この物件が「ペット可」なのを理由に即答しました。
「わあい!」
と娘が喜ぶと、
「だめよ!」
とカブせるようにママが遮りました。
「ちゃんと世話をできないでしょう?」
「するもん! ねえいいでしょパパ?」
「う〜ん……いいよねママ?」
パパは、今度の安い賃貸物件に負い目を持っていたので、小さな娘を喜ばせるためにとにかくメリットを役立てたかったのでした。
ママは、小さな娘に向かって言いました。
「ちゃんと世話するって約束する?」
「うん!」
「絶対に?」
「うん!」
こうして、一家の新生活が始まりました。
* * *
生き物は飼われては飽きられ、また別のものが飼われては飽きられしながら、長い長い、本当に長い時間が流れました。
賃貸物件内には、おびただしい種類と頭数の生き物たちが住むようになっていました。
そして一部の生き物が、鳴き声を上げました。
「うう、生きるのがつらいです。何とかして下さい。神様ひどいです」
と、小さな娘は、パパを真似た口調で言いました。
「生き物の面倒をちゃんと見れる人だけが、石を投げなさい!」
(了)
引越しそばは出てくときに食べるのか、新しい家で食べるのか、どっちが正解なんだろうか。母と父と囲む最後の真昼の食卓で、出前の特上天ざるを目の前に私はそんな事を思うのだった。
父は職場で不倫をしていたらしい。小学生の私にもクラスに好きな男の子は2人居るし、不倫なんて朝のニュースでほとんど毎日やっている。日常にありふれたちょっとした不幸にたまたま出くわしただけだ。私にとってはみんなの前でリコーダーのドが上手くならなかったのと別に変わらないことだった。
スマホでポチポチ調べると引越しそばの件はすぐに解決した。別にどっちでもいいらしい。
母はいつもそばを食べる前に海老天を私にくれる。私のだけ特々上天ざるにしてくれるのだ。ただその日はいつもと少し違った。
『お前海老天好きだったろ』
父はそう言うと食べかけの箸で自分の海老天を私の方によこした。天紙を伝って『父』が天ぷら全体に行き渡る。私はそれ以上食べることが出来なかった。母は温度が下がった黒目でその光景を見ていた。
そばを食べるとすぐに母と2人でこの家を出た。明日からは母の実家で暮らすことになっている。
家を出るとき後ろから『おい』と聴こえた気がした。母も私も振り返らなかった。
電車の中で母が私に聞く。
「明日お昼にはじいちゃんの家着くけど何食べる?」
「そば」
私が答える。
「また?」
母は笑う。
「だってどっちでもいいらしいから。」
私がそう言うと、母は不思議そうな顔をしていたがどうでもよかった。私の気持ちは、明日の特々上天ざるに向いていたから。
街を歩いていたらチラシを差し出された。
「あなたの言葉を、一個あたり一万円で買います。例えば、『犬』という言葉を一個売れば、あなたは一万円を手にできるということ!」
今の時代って、こんな商売があるのか?
数カ月後、スーツ姿の女性が私のアパートを訪ねてきて、いきなり私の胸ぐらを掴んだ。
「どんな言葉でもいいのです。今日、誰かの言葉を買取らなければこの仕事を首になってしまいます」
私は暴力的なことに不慣れで、あなたの話を聞きますからとりあえず手を放して下さいと懇願するしかなかった。
「はあ、はあ、すみません。でも、今年小学校に上がる子どもを育てなければならなくて」
あなたの事情はお察しします……。でも、いきなり言葉を売れと言われても。
「どんな言葉でもいいのです。言葉を売っても、その言葉を使うことはできるので日常生活に問題はありませんし」
う、うごえ……。
「そのうごえとは言葉ですか?」
い、いや知りません。ただ、あなたに胸ぐらを掴まれたときに浮かんだ言葉で。
「端末で調べてみますね……。OKです。あなたの言葉を一万円で買取します」
私は溜息をつき、彼女から渡された一万円札を小さく折り畳んでゴミ箱へ捨てた。
その後、インターネットを眺めてると言葉の売買が世界経済を支配している話題ばかり。
「言葉を失った人間はただの動物です! この世界で生きるためには、まず言葉を購入する必要があります! でも今なら、最低限の言葉を購入できる月額一万一〇〇〇円の格安Sプランがあります!」
今の世界は、より多くの言葉を買った人や国家が世界を支配しているらしい。
「あなたは『うごえ』という言葉を譲渡したため、その言葉を使う際は買取り主の要求に従う必要があります」
数年後、怪物みたいな男性が私のアパートのドアを壊したあとそう言った。
「言葉を譲渡したあと、あなたが夢の中で『うごえ』と発したことを確認できたので、その使用料二十万円を支払って下さい」
え、日常生活には問題ないという説明で売ったはずで……。
「そのルールはもう一年前に変更されましたし、夢の中の言葉も対象になっています」
私はもう、財布の中に二百円しか持っていない。
「うーん、それでしたら言葉を二千語ほど売って下さい。現在のレートは言葉一つあたり百円ですから」
売らなかったらどうなりますか?
「刑務所行きですね」
言葉を失うより、刑務所のほうがまだましかな。
声は遠くからずっと聞こえ続けている。
日常生活はいつもどおり続いている。大きな事件が起こるでもなし、急激な変貌を遂げるでもなし、特に大きな問題があるでもなし。ただ淡々と。
頭のなかも目の前の景色も、ずっと霞がかっている。はっきりと見えない世界のなか、ずっと手探りで空気をかき分けながらゆっくりと歩み続けている。立ち止まると進めなくなる。ただその信念のみが、ずっと私を駆り立てている。
世界はずっと苦手なものだけでできている。何を食べてもおいしくないし、何を見ても素敵だと思わない。身体を動かすことは好きではなく、何かを考えることも億劫。
ただ、声だけが。遠く遠くからずっと聞こえ続けている。
すべての人に聞こえる声ではない。特別に大きな声というわけでもなく、意識にのぼせないようにすることもできる。けれども通奏低音のように、いつでも気を抜いた途端に絡め取られてしまう。
呼ばれていると思うこともある。こっちへくるなと難詰されているように感じることもある。どちらにせよ誘惑であり誘導だ。声の促すとおりに動いてしまいたい。この身をすべて委ねてしまいたい。
だめだよ、と近くで聞き古した声がする。服の裾をしっかりとつかみ、首を振り続けている。だめだよ、行ってはだめ。あの声にすべてを任せてはだめ。善きことであれ、悪しきことであれ。あなたのことはあなた自身が決めなくては。
この先に何が起ころうとも、それはあなたの選択。
この子はあたし。まだ若く強かった頃のわたし。今では着古した服の裾にやっとのことで指を引っかけてぶら下がっている。爪で弾くだけで簡単に飛んで行く。埃に紛れて見えなくなる。
そうしてもいい。けれども、どうしても見捨てることができない。大きく首を振り続けるこの子を。泣きそうな瞳で私を見上げているこの子を。
もう諦めていい。私はもうあなたの信じ続けていたあなた自身ではない。この先にはもうあなたが夢見ていた世界は広がってはいない。
でもどうしても振り切れない。着古したこの服を着替えられない。古いほこりを落とすことができない。
褪せて古びた服の裾につかまり続けている小さすぎる姿にちらりと目をやったまま、どうすることもできない。
声はずっと聞こえ続けている。進むことも戻ることもできず、隘路で立ち尽くしたまま何ひとつ発することができない私の代わりに、叫び続けている。遠くで。近くで。