# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | ネッ友 | 蘇泉 | 637 |
2 | 梅干しはセンチでハードボイルド | なこのたいばん | 440 |
3 | 返答 | アドバイス | 130 |
4 | 時代 | 霧野楢人 | 1000 |
5 | 誰も来ない洋服店 | euReka | 1000 |
6 | such as such can | るるるぶ☆どっぐちゃん | 1000 |
7 | 天と地と | 朝飯抜太郎 | 1000 |
「今日はあの子と会ったが、やっぱり勇気なかったよ。」
蘇泉がスマホでいつものようにAちゃんとチャット。
「クリスマスに告白したらどう?」
とスマホの画面に、Aちゃんの返事がきた。
「そうだね!Aちゃんの言う通りにするよ!」
蘇泉は嬉しげにメッセージを返信。
「ところで、もう月末だから、来月分を振り込むよ。」
蘇泉はメッセージの次に、一日分の給料ぐらいのお金をアプリでAちゃんに送金した。
「いつもありがとうね〜彼女ができたら、うちみたいなレンタルチャット友はいらないね。」
スマホの画面にAちゃんの返事が表示されている。
Aちゃんは、蘇泉がお金を払って、蘇泉の愚痴を聞いたり、恋愛の相談をしたりするレンタルチャット友である。おそらく蘇泉だけでなく、何十人のクライアントが居るだろう。そしてそれで生計が立てているかもしれない。もちろん蘇泉はその点について了解している。
「最近のAIやらGPTやら、すごいらしいね。人間っぽい会話ができるなんて?ひょっとしたらAちゃんは仕事がなくなるかもw?」
蘇泉はAちゃんにメッセージを送信。
「そうかもね!でも蘇泉ちゃんはうちを離れないよね!」
Aちゃんからの返事。
「もちろんだよ!じゃおやすみね。」
蘇泉はメッセージを送信し、スマホの画面を閉じた。
ーーーー
エイ株式会社AI研究所にて。研究員がプロジェクトマネージャーにこう言った。
「
この会話のデータを見てください。
AIやGPTを知っているユーザーでも、
我が社の『Aちゃん』はなかなかバレないですね。
」
冷蔵庫の中には大粒の梅干しがひとつ鎮座している。もう2週間にもなる。アイツがこの家に来なくなったからだ。
どこかで酔っ払ってきてはアイツはいつもこの家でお茶漬けを喰らって帰っていくのだ。
「お前の手料理はいつも美味いよ。」って。ご飯に塩昆布乗っけてお茶かけてあの梅干し乗っけただけじゃねぇか。バカにしやがって。この梅干しがある限りはなんだかいけない気がして、キッチンに足を運ぶ。
アイツの華奢な手足に見立てたきゅうりはボキボキと麺棒で砕いていく。バラバラになったアイツは鶏ガラとコチュジャンベースの血の池地獄に漬け込む。小皿に盛って糸唐辛子と胡麻をかければ「アイツの韓国風即席漬け」の完成だ。
冷凍庫でキンキンにしたグラスには4:6で焼酎のソーダ割りを作る。最後にあの忌々しい梅干しをグラスの底に沈める。
こんな早い時間から飲むのはアイツのせいにして。音楽アプリがシャッフルで流すのは、中島みゆきの「タクシードライバー」嫌な偶然ってあるもんだ。
気づけばもう午後3時。
「西陽が目に染みるぜ。」
「え、24号室に住んでいた人は何年も前に亡くなっていて、そこは現在空き部屋のはずですよ」
と店員に言われたが、私はレジ袋もらえますかと聞いただけだし、結局レジ袋は貰えなかったし、その後何年もレジ袋を見るたびに自分の聞き方が悪かったのかなとか思い出して最悪だった。
百貨店前の噴水が待ち合わせ場所だった。小さな広場で、壁や塀に沿ってぐるりとバラが植えられ、秋なのに薄桃色の花が八割ほども咲いていた。ささやかなバラ園のようで、百貨店の気品を強調するようによく整っており、僕には過剰に見えた。
古希を迎える祖母にプレゼントを買いたい、というのが彼女の申し出だった。これが初デートとなるわけで、よそゆきの服の皺を気にして立っている僕は、上品な広場の雰囲気には馴染んでいるのだろうが、茶番に加担しているようでむず痒い。
ーーおばあちゃん、去年転んで、もう歩けないんだけどね、百貨店がお気に入りだったんだって。
昔ならいざ知らず、この都会かぶれした百貨店が賑わっているところは見たことがない。上層にある書店目当てに足を運ぶときは、いつも客より店員の方が目につき、がらんとしたフロアの煌びやかな照明に羞恥を覚えるのだ。入店も初という彼女に惨めな思い出は作らせまいと、事前にフロアマップなど検索してはみたものの、特別楽しげな売り場があるようには見えず、そもそも買い物を楽しむ習慣がない僕はすぐに参ってしまった。
晴天で、重たげに蕾を開くバラの花も、その下に茂る緑の葉も、大人しい色彩でいながら明るかった。黄色い蝶が一匹、花の世話でもするかのように忙しく飛び回り、時折、光を散らして水を吹き上げる噴水の音に翅を乱している。
定点にいると、それなりに人の出入りはあることがわかった。年配者ほど身なりが洒落ていて、百貨店に対する価値観の変遷をダイジェストで眺めているような気分になる。たまに見る若者はジャージ姿だったりする。だから彼女が清楚なスカートを揺らして現れたときはちょっと目が眩んだ。
「わ、本当に咲いてる」
彼女は僕との挨拶もそこそこに、スマホで薄桃の花たちを撮り始めた。
「この時期に、珍しいね」と僕が窺うように言うと、彼女ははにかみながら肩をすくめ、
「開店したのが秋だから、秋薔薇なんだって」
そういえば、来週から開店記念祭だとネットに書いてあった。
彼女も青空に明るく映えた。黄色い蝶がひらひらと、花と間違えたように彼女の周りをひと回りしていった。僕は、自分がしょうもない考えに囚われていたことに気づき、顔が熱くなった。よそゆきの服に皺が寄ってないかこっそり確かめる。
「……良いプレゼント、見つけてあげような」
何よりもまず大事なことだ。
「うん!」
彼女は花みたいに笑った。
その洋服店には、青色の服だけしか置いていない。
以前から、近くを通るたびに青色の鮮やか看板が気になっていたが、中に入るまで洋服店だとは知らなかった。
「え、あ、お客さんですか? うちは全く客が来ない店なので」
店主の男性は慌てた表情でそう言いながら、店の奥へ引っ込んでしまった。
置き去りにされた私はどうしようかと思いながら、店内の青い服を見ていると、数分後に店の奥からコーヒーをお盆に乗せた女性が現れた。
「すみません。夫は人見知りなものですから。でも素敵な服ばかりですので、ゆっくりご覧になって下さい」
私は服を買うつもりは全くなかったが、コーヒーまで出されたら、そのまま帰るのも気まずい。
それで、コーヒーを飲みながら店内の服を見渡していると、私はあることに気づいた。
「うちで売っている服は、染料を一切使わないのが特徴なんです」
そう。この店の服は、染料のベタっとした色ではなく、どこか透き通った感じの色なのだ。
「こんなことを言うと変に思われるかもしれませんが、ここにある服は、ぜんぶ青空を切り取って作りました」
え?
「ほら、この服なんか、白く薄い雲が少しずつ動いているでしょ」
うーん、まあそうかな?
「わたしの夫は、青空を切り取ることができるんです。初めはただ切り取った青空を部屋に飾ったりするだけでしたが、服を作るのが得意だったわたしが、何とかその青空を服に仕立てたものがこれなのです」
はあ、それで結婚されて、この店を?
「でも夫は、せっかく作った青空の服を手放したくないから、できるだけ客が来ないような店にしてしまいました」
たしかに、店には青色の看板があるだけで文字情報もないから、普通は誰も店に入らないだろう。
「それでも店を訪れてくれたあなたは、変人というかその」
まあ、変人でいいですけど。
「すみません」
でも私が気になったのは、青空を切り取り続けたら、その青空は虫食いだらけになるんじゃないかということだ。
「青空を多少切り取っても、すぐに再生するから問題ないです」
店の奥からいきなり店主の男が現れて、そう言った。
「しかし青空の服を大量生産するようになったら、再生力が追い付かなくなって、青空はいずれ失われるでしょう」
未来には青空さえないのか?。
「だから、この洋服店のことは誰にも言わないで下さい。さっき青空を切り取って作ったTシャツをあげますから、絶対、絶対内緒にして下さいね」
さっちゃんはね さちおっていうんだほんとはね だけど田舎だしでかい家の長男だから自分の事はじぶん、とか、わたし、とか、おれ、とかって呼ぶんだよ
まじめだね さっちゃん
さっちゃんはね ピンクと口紅とスカートがだいすき ほんとだよ
だけど田舎のでかい家の長男だから丸坊主にして背筋をがんと伸ばして地元の名門校の黒い詰襟を着てるんだよ
背が高いから似合うね さっちゃん
さっちゃんはさ 家の事も両親のことも好きだっていつも言ってたね
だけどこの前なんの話の続きだったか覚えていないけれどぼくにだけそっと、家の事も両親も大嫌いだって言っちゃったね
きっと両方ほんとなんだよね さっちゃん
さっちゃんとさ この前けんかをしちゃったね
だって慰めてあげたのにてめえなんぞの遊冶郎になにがわかるなんて言うからこっちだって遊冶郎で何が悪い、先祖代々由緒正しき恥じることなき遊冶郎様だぞってなっちゃったよね
これはぼくが悪かったね さっちゃん
さっちゃんはね 女子プロレスが大好き ほんとだよ
夏蝉蒸し暑い閑散とした市民体育館のその一番後ろの席で、リングを観ながら、ああ、さっちゃんは、静かに静かに泣いていたね
また行こうね さっちゃん
さっちゃんはね お金持ちで頭がとっても良くて背が高くてそしてカッコいいから女の子にもてるんだほんだよ
だから女の子にはとてもひどいことをしちゃうのかな
女の子たちもぼくもおまえのママじゃねえぞ さっちゃん
さっちゃんとさ 一度だけラブホテルに行った覚えがあるけどほんとかな
確かあの夜は終電がなくなったからとかなんとかでそれで安く泊まれるところってなって二人でラブホテルに入ってそして朝までエロビデオを観ながら快楽としての物語性を批評しあったりルールも解らないスロットをやったりしたねお互い目も合わせずに
あの朝はカラスがとてもいっぱいいたね さっちゃん
さっちゃんがね とおくへ行っちゃったんだ 唐突に
何の書置も無く急にいなくなっちゃったから大騒ぎになって、さっちゃんの両親も、あのかわいい妹ふたりも気が狂ってしまったけれど、ぼくは知っていたよ
また会おうね さっちゃん
さっちゃんはさ いまどこで何をしているのか 教えてよ
世界はバイオ技術によって産まれながらにしてジェンダーの軛から解き放たれてしまったから、平等で平和な世界だから、きっとみんなさっちゃんのことも忘れてしまったね
こんなひどいはなしは無いよね さっちゃん
後ろから殴られて、俺の意識はあっさりと途絶えた。死んだ。銭ゲバ、金狂い強欲老人、悪口を受け流して貯めた金も全てが水の泡だ。
そんな死の記憶を思い出しながら、あたしは目の前の俺だった死体を眺めていた。つまり、卓三は死んで魂は十九年時間を遡り、後に義理の娘となる飯田蛍として生まれ変わったのだ。あたしは、義父・渡良瀬卓三の前世の記憶を思い出し遡って人格が統合、おっさんゴスロリギャルとして爆誕した。しかし卓三の記憶は卓三が生きている間は卓三に紐づけられるらしい。卓三の死と共に卓三の記憶があたしに再び接続されたということだろう。瞬間的な理解の爆発に、あたしはその場でオロロと吐いて、母(前世では妻)に介抱されて部屋に戻った。
母は部屋に戻るとドアにカギをかけて、ベッドに倒れ込んだあたしの手を掴んで泣き出した。
「パパ死んじゃった……蛍ちゃん、どうしよう」
「どうしたもんかな」
この別荘にいるのは主人である渡良瀬卓三の家族と、親戚、友人家族、一部の使用人の合わせて十二名。ここは今、陸の孤島となっていて、外からの侵入者はない。つまり、犯人は残り十人の中にいる!
考えながら、私は寝てしまい、そして、そのまま死んだらしい。
目が覚めると、あたしは渡良瀬卓三の友人、青木武に転生していた。おっさんゴスロリギャルおじさん爆誕である。
私が鍵のかかったドアを破ると、中では蛍と母親のあゆみが死んでいた。
そこで再び頭に衝撃。気付けば……。
二度あることは三度あり、三度あることは何度でもある。割愛するが、あと六人死んで、私は三回転生した。
そこで時間がきた。
最初大きな揺れがあり、そして断続的に揺れが続いた。
だが、渡良瀬卓三が財産のほとんどを使い築き上げたシェルターは、核攻撃でさえも耐えきったようだった。外の人間はどのくらい生き残ったのか。だが中の人間も、もはや二人だけだが。
そして、予想した通り、これまでの比ではない記憶の奔流が流れ込んできた。暴力的な渦の中、奇跡的に人格は統一される。
部屋の扉が開いた。
メイドだった女が、そこに立っていた。右手に長い刀を引きずっている。彼女の中に最初の犯人もいるのだろうが、中身は今や混ざってしまった。僕と同じだ。
何億の魂が二分されて、僕と彼女の中にある。
女が口を開いた。
「待ちかねたぞ、武蔵いや信玄、いや」
僕は無言で、二刀を構えた。自然と、笑みがこぼれた。