# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | あの夢 | 蘇泉 | 412 |
2 | はだかの服 | 朝飯抜太郎 | 1000 |
3 | 塩辛猫の思い出 | euReka | 1000 |
ある日、世界中の人々が同じ夢を見ました。まったく同じ夢です。その事実はすぐにインターネットを通じて確認され、確かに世界中の人々が同じ場面を夢見たことが分かりました。世界は恐慌し、人々は3つの派閥に分かれました。
1.科学派は、これが生理現象であると考えています。
2.神学派は、これが神の顕現であると考えています。
3.異星派は、これが宇宙の信号であると考えています。
人々はこの夢について何年も議論しましたが、何の結論も出ませんでした。地球上にも何の異常も起きませんでした。20年後、この夢を経験しなかった人々が成人し始め、人類は「『あの夢』の存在を認めない」革新派と「『あの夢』を覚えている」保守派に分かれました。保守派はこの夢が未知の危機を意味すると考えていますが、革新派はこの夢の存在を否定し、人類の絶対的な主体性を維持する必要があると主張しています。
そして、ある日、人類は再び同じ夢を見ました…
真夜中の街を歩く。闇と風が体を撫で、昼間の鬱屈が吹き飛んでいく。ああ、全裸って、素晴らしいなぁ。
歌い出したいような気持ちは、街灯の下に人がいて霧散した。咄嗟に背を向け、
「待ちなさい」
その声は、夜中に変質者に出会ったにしては穏やかで、優しかった。
僕は、丸い眼鏡をかけたそのおじさんに「ついてきなさい」と言われて素直に従った。
「そこに立って」
僕は部屋の真ん中に立ち、おじさんはメジャーで僕の体を測った。そして隣の部屋からシャツとズボンを持ってきて作業机に向かった。おじさんの所作はとても洗練されていた。
「ずっと眼鏡をかけているとね、眼鏡をかけていることを忘れる時がある。頭が、それが自然だと錯覚するんだ。私は服でも同じことが起こると思った」
おじさんは僕に服を差し出した。
「まずは三日、何があっても着続けること」
「どうなるの?」
「服が消える」
僕はその服を着て帰り、そのまま三日間着たまま過ごした。
そして、
「おじさん、すごいよ! 着てるのに。確かにあるのに! か、風だって感じて」
まくし立てる僕の前で、おじさんはただ微笑んでいた。
僕はそれから昼夜関係なく、服を着たまま全裸で歩いた。最高の時間だった。
でも三か月ほど経って、僕はもう一度おじさんの店を訪れた。
「おじさん、この服はすごいよ。でも」
「全裸ではない」
おじさんは微笑んでいた。僕は後悔した。
「この服を作ったとき、私は全能感に満ち溢れていた。何人もの全裸者に服を渡し、傲慢にも彼らがこの社会の中で生きていけると信じた。だがダメだった。しかし私はこの服を捨てられず、そして、また繰り返した」
おじさんは僕の前から去り、父の跡を継いだ僕は街に行くこともなくなった。
そんなことを思い出していた。
建国百年を祝うパレードのための服の入札で、私は今、王として服屋の話を聞いている。
目の前の男は恭しく両手を掲げ、目玉をグルグル廻して叫んだ。
「これは、バカには見えない服でございます!」
私はわざと即座に応じた。
「ほう! なかなか良い服だな。大臣」
「た、確かに! 素晴らしい服でございます」
暗澹たる気持ちになったが、強権を用いて政をしてきた結果でもある。
しかし。
これであの思い出に決着できるのではないか? そんな直感があった。
祭りの日、私はその服を着て、全裸で立っていた。
懐かしい風が、体を撫でていった。だが、ただそれだけだった。
小さい頃、私は、猫というのは人間の言葉を喋るものだと思っていた。
「やあキヨハル、去年より背が伸びたな。お土産はちゃんと買ってきたか?」
母方の実家で飼われている猫は、私にそう話し掛ける。
「キヨハルはいつもお土産を忘れないから、オレ好きさ」
お土産というのはイカの塩辛のことで、猫の大好物だった。
「猫はイカや塩辛いものはダメだから、いつもは食べさせてもらえない。でも、キヨハルのお土産なら仕方なくオーケーになるんだよな」
母方の実家には、祖父と祖母が住んでいるだけで、周囲には田んぼしかないようなところだ。
里帰りをして祖父や祖母に会うのは嬉しかったけど、遊び相手もいなかったから、子どもの頃の私にはひどく退屈な場所だった。
「なんだキヨハル、つまらなそうな顔して」
イカの塩辛をつまみに酒を飲みながら、猫はそう言う。
「お前には、まだ酒の相手は早いよな。面倒くさいけど、オレが面白い場所に連れてってやるよ」
猫の後について行くと、近所にある森へずんずん入っていく。
しかし祖父からは森には行くなと言われていたことを、わたしは思い出した。
「まあ少し危ないけど、オレが付いているから平気さ」
暗い森を抜けると開けた場所があり、何人かの子どもが笑いながら遊んでいた。
でもよく見ると、子どもたちの服装は昔の着物みたいだし、顔も、狐や狸だったり、目や口がなかったり……。
「お前はまだ知らないと思うけど、オレは妖怪で、こいつらも妖怪なんだよな……。おい、みんな出てこいよ!」
そう猫が言うと、森の中から、奇妙な姿をしたよく分からない連中がぞろぞろ現れた。
「おい、お前ら! キヨハルはオレの友達だからな。喰ったり、犯したり、変なことは絶対するなよ!」
祖父が、森には行くなと言った理由が何となく分かった。
「オレは、あの家の十代ぐらい前の時代に飼われていた猫だったんだけど、居心地がよくて、そのまま妖怪になってしまったんだよな」
子どもだった私は状況がよく分からないまま、奇妙な連中と一緒に鬼ごっこをした。
でも、気が付いたら三日ぐらい時間が過ぎていて、居なくなった私を探すために、警察や地元の人たちによって大規模な捜索が行われていた。
「本当ごめんな。オレも楽しくて、時間を忘れてさ」
私は、祖父からこっぴどく叱られたが、祖母は優しく抱き締めてくれた。
猫は普通喋らないものだと教えられたのも、そのときだったと思う。