第25期 #6

夏祭り

「お客さん、その辺で勘弁してくださいよ」
 金魚掬いの露店を構えたおやじは、達也と香里が店先に網を構えて陣取ってから何本目かになる煙草を、地面に擦ってもみ消した。
「そりゃあ釣れるだけ釣っていいとは言ってるけどさあ。お客さん達みたいな人のことは正直計算に入れてないんだよね」
「悪い、おやじ。もうすぐ勝負がつくから、待っててくれよ、ちょっとだけ。…おい、何匹だ」
「20匹目。達也は?」
「…今、21。そろそろ降参しろ」
「あんたこそ。あたしゃこれで負けたことないんだからね…よし、21匹!」
 香里が軽く手首をひねると、薄い網から小さな金魚が小さなしぶきを上げて椀に飛び込む。黒い椀の中は赤橙色に跳ね回る金魚で一杯だった。
「俺だってもよ」
「おじさん、待っててね。この街の名誉にかけて、あたしがこのへっぽこ自衛官をへこましてあげるからね。」
「…よそでやってくんないかなあ。香里ちゃん、毎年なんだよね。いい年して、全然変わってねえや…それどころか、今年はとんでもない人連れて来ちゃって。沙織ちゃんの彼氏かい?アンちゃん、自衛隊なら俺の平和を守る為に彼女を止めてくれよ」
「誰が彼氏?おじさんちょっと黙ってて…よし、22匹。あ、破れる?…まだいけるか」
「おやじ、わりいけど俺、今日非番でな…22匹目。この辺で勘弁してやるぞ」
「あら、負けを見とめるのかしら?」
「地元で恥かかないように顔立ててやるっての…お、23匹」
金魚掬いのおやじは、深いため息をついて、次の煙草に火をつけた。参道を点々と飾る提灯を見上げ、深々と吸い込んだ後、反対の手で尻ポケットから携帯電話を取り出す。
「あ、もしもし?来てるよ、香里ちゃん。例の露店荒しの、指名手配の凶悪犯。今年はなんか自衛隊の護衛つき。それが輪をかけてとんでもねえお人でさ。あんたも今日は店たたんだほうが…あ、もう来たの、そっちにも。7段に並べた射的のおもちゃ全部いかれたって?イカサマで台にくっつけてある豆雛のようなやつまで?まさか彼氏、実弾発砲したんじゃあるまいね…」



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