第25期 #3
まだ小さな子どもが二匹机をはさんで座っていました。外のお日様はニコニコで、チューリップには二本の平行縦線とその下に上向き半円が描かれているのでした。カバくんは庭で虫歯でいっぱいの大きな口をばっくり開けて窓の外から子ども達に一生懸命にあやまろうとしていました。でも子供たちはカバくんを完全に無視してカバくんの罪を重ねるのでした。
「そうさ。ボクは何も分かってはいないよ。でもね、ボクが思うにはキミだって大した事は分かってはいないよ。ぼろぼろの布切れみたいな知識を少し聞きかじったくらいだろう。キミはね、バカなんだよ。分かるかい。」
右側の子が言いました。
「バカなのはそっちの方さ。キミなんか小学校も卒業してないじゃないか。それはね、キミ。バカな証拠さ。ボクはずっとクラスで一番だったからね。秀才でも天才でもあったんだよ。」
「何を言っているんだい。キミの学校なんてバカの学校じゃないか。バカの学校で一番でもね、所詮はバカ止まりなんだよ。ボクなんか見てみるとね、頭の切れる仕事についているんだよ。バカが羨ましくなるような仕事さ。20年以上学校に行かなければならない有名な職業の一つのことだよ。キミとは大ちがいだね。」
左の子どもが笑うとカバくんが涙を流しながら窓を叩くのが見えました。
「バカはバカな事しか言わないんだね。いいかい。キミが学校に入れたのはキミの親が終末ジャンボ宝くじに買って校長に賄賂したからなんだよ。キミの親はバカの血がキミに流れてることを恐れたんだね。親がバカなら子もバカ。遺伝子ってやつさ。」
「キミの親だって賄賂したさ。クラスで一番だったということは先生までにも賄賂したんだね。そんなことにも気づかないなんてキミはホントにバカだよ。」
「それってキミの事じゃないか。キミってホントにバカだな。」
すると、むせび泣きながら頭を窓に打ち付けていたカバくんはとうとう頭を窓ガラスにぶつけてがっしゃんとガラスを壊してしまいました。二人の子はびっくりしてカバくんの方を見やりました。カバくんは涙でぐちゃぐちゃになった顔を大きな手で拭きました。
「ごめんよ。窓を割ってしまって。荒野に放たれたやぎくんは死んだよ。僕が代わりにならなきゃいけないのに。僕は本当にバカだよ」
そして罪無き子供達はその純粋がなる故を見つめ沈黙した。カバが静かに外の遠くを見つめると、チューリップが少し不思議な顔をするのが見えた。