第25期 #2
『今日も雨がふっているから
彼は今日も迎えに来れないそうです』
彼女の日記はいつもそう綴られていた。
朝、書いた後に澄み渡った青い空を見ては微笑んで。
雨傘をさして陽のよくあたるサナトリウムの中庭を歩き。
真中にある時計台の下で夕方を迎えるまでただ立っている。
それが彼女の日課だった。
決まった時間、いつも繰り返す。
そして彼女は、彼女のやまない雨の中でいつまでも。
いつまでもただ「僕」を待っているんだ。
今ここにいる僕じゃなく
「あの日」、彼女を迎えに行けなかった「僕」を
ずっとずっと待ちつづけているんだ。
『今日も雨が降っていたので
彼は今日も来れなかったそうです』
彼女の日記には雨音だけが綴られていく。