第25期 #1

白い歯

 ぐしり、ぐしり、ぐしり。
 おおきく白い歯が肉の繊維を噛みしだく。牙と呼ぶべきかもしれないそれが肉を抉り、骨を砕いてゆくのを私はうっとりと見つめる。その歯茎に指をはわせ唾液とまざりあった血をすくい、ぺろりと舐める。潮の味。なまぐさい。おいしそうに見えたのに。あまりおいしそうに肉を食うから、私のこともおいしく食ってくれそうだったから食われているのに。
 おいしくない。そのことだけが、ちょっと癪だった。


Copyright © 2004 黒木りえ / 編集: 短編