第25期 #28

夢日記

 そのブログを見つけたのは、偶然だった。「夢日記」と言う名のそれは、この日記で始まっていた。


 昔から、僕は手が不器用だった。
 だからか、奇術師に憧れを抱いていた。
 テレビで手品が放映されると新聞で知ったので、
もちろん、見ることにした。
 とても、わくわくするその手品は、
僕に真似できない素晴らしい物だった。

 奇術師には、助手がいた。僕も助手くらいなら……。
 そうは思ったけど、そんな簡単な物じゃないだろう。
 テレビを消してから、ふと、そんな事を考えた。


 そのブログには、彼の毎日の出来事が淡々と記されていた。犬の散歩に行った話とか、朝のジョギングは気持ち良いだとか、今時珍しい、人に見せるのが目的ではない、ただの日記だった。
 大して面白くも無い内容だったが、なぜか毎日見に行く様になっていた。最初の日記を見た時に、なにか違和感を感じた所為かも知れない。ただ、その違和感の理由は、解らなかった。
 彼は、コメントやトラックバックに無反応だった。方針なんだろうと、単純に考えていた。が、それに理由がある事を知ったのは、半年近く後の事だった。

 数週間ほどで、飽きてきたのと忙しかったのとで、徐々に疎遠となり、見に行く事が無くなった。が、それから数ヵ月後、ふと久し振りに彼のブログを覗いて見た。
 彼は飽きもせずに、毎日欠かさず、日常を書き連ねていた。なんとなく安心し、また、見に行く様になった。

 が、それから数日後、目を疑う様な日記を読む事になった。


 この日記を読んでいる人がいるなら、僕はあなたにありがとうと言いたい。
 今、あなたの読んでいるこの文は、公開日の半年前に書いています。
 これは、小さな頃から病気がちだった僕が、夢に描いた日常の日記でした。
 明日の手術が成功したら、この日記は公開しないつもりです。
 もし、あなたがこれを読んでいると言う事は、僕は……。

 いや、やめましょう。

 こんな、普通の人には退屈な日記を読んでくれて、ありがとう。

 そして、さようなら。


 読み終わって、暫くの間、その内容が理解できなかった。次の日、ブログは更新されなかった。その次の日も、その次の日も。
 やりきれない気持ちで、最初の日記を眺めていると、突然、そこに残されていた彼の心の叫びに気づいた。そして、涙が頬を伝っていった。

 その後、彼のブログは無くなってしまった。彼の夢は、ネット上からも儚く消えてしまったのだ。


Copyright © 2004 神崎 隼 / 編集: 短編