第25期 #11
三輪さんとこの六兵衛さんが、「天使」であると、言いだしたのは先月の中ごろであったか。僕は、姉と久々に買い物に出かけて、その帰り、六兵衛翁の、ヒョコヒョコした足取りを見かけ、顔を見合わせて微笑んだものである。「ワシは、天使じゃ。もうすぐ最後の審判が訪れるぞい、許しを乞いたい者は、ワシのもとに来るのじゃ。」といって、全然誰も相手にしようとしない。
「おい、老人。君は天使だってね。」僕は、しょうがないので、声をかけた。
「そうじゃ。」
「じゃぁ、許しを与えてくれるかな。」
「もちろんじゃ。」
「あ、僕の姉も頼むよ。」
「もちろんじゃ。」
「ところで、君はなんで天使になったんだい?」
「この世は、すさんでいるからじゃ、救世主様は、この世の惨状をお嘆きになって、ワシを使わしたんじゃ、それに気付くのが、ちと遅かったんじゃ。」
「そうかいそうかい。じゃ。」
「そなたたちの上に、神の祝福を。」
六兵衛翁は、尚も手を振っていた。
「痴呆ね。」
「ああ、痴呆だな。」
そう言って、僕と姉とは、手を握り合い、背中から羽を生やして、天上に帰っていった。