# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | 世界シミュレーションゲーム | 蘇泉 | 446 |
2 | 運命 | Dewdrop | 818 |
3 | すべてがPになる | 八木耳木兎 | 993 |
4 | 冗談好きな担当職員 | euReka | 1000 |
5 | 強風 | アドバイス | 981 |
6 | 面白い話 | テックスロー | 976 |
7 | 共感 | 朝飯抜太郎 | 1000 |
【GAME OVER】
「GAME OVERだよ。
え?何がって?地球MODがGAME OVERだよ。
ここは神界のゲーム屋、貴方は地球MODの主人公ね。
うん、死んだじゃなくて、GAME OVERだ。
だって地球に意志がある生き物は貴方だけだもん。他は全部NPC。
そう、お父さんもお母さんも。
しょうがない、地球MODは1Pモデルだからね。1つの主人公しかないわ。
普通はプレイヤーがゲームMODを買って、主人公を観察したり、刺激を与えたりして遊ぶの。
だけど地球MODは店で展示用でやっているから、今はバージョンアップで強制終了するの。
うん、普通は主人公が死んだら終わりだけど、今回は特別。
だから、今、死に方を考えてね。
本当になんでもいいから、だってお前はシミュレーションのAIだもの。
AIがそこまで質問してくるのは、流石この世界シミュレーションゲーム。
」
「
雷が落ちて死ぬ?貴方センスいいわね!
あ、そうだ。新しいバージョンではマルチプレイができるよ。
地球MODと三体MODを合わせてみたいね!
」
【雷の音】
数年前のこと。
青年は転職活動をしていたが上手くいかず、ふと、占い師に見てもらおうと思い立った。
キャリアコンサルタントと面談するのではないから、現実性のある、具体的なアドバイスは特に期待しなかった。せいぜい気分転換に、あわよくば人生のヒントに……という姿勢だったが、果たして収穫はあるにはあった。
「あなたの前世は、ヨーロッパの貴族です」
占い師が真顔でそう言うと、青年は苦笑いした。
「お上手ですが、誰にでもそう言っているんでしょう」
「いいえ、そんなことは決してありません」
占い師は真顔で続けた。
「あなたの前世は、ヨーロッパの貴族。それも、位が非常に高いです」
「それはそれは、本当にありがたいことです」
占い師は、あいにく、この他には大したことを言わなかった。
しかし青年は、占い師が真顔を崩さず青年の自尊心を癒してくれたことに感謝しつつ、気持ちよく料金を支払った。
青年は得た職場で勤続しており、しかしまだ家庭を持つには至っておらず、スナックや風俗店などを楽しんで暮らしていた。
青年は前世が位の非常に高い貴族だと言われたことを話のねたにし、実際羽振りがいいのもあって、女の子たちも青年を「貴族さん」と呼んでおだてることにやぶさかではなかった。
さて、そういうある日、青年は耳かき店を訪れた。
その日も女の子に膝枕をしてもらい、耳を気持ちよくかいてもらう。
雑談ものどかに弾んでいたところ、自分の顔の間近に女の子の胸が迫っているのを機に、青年はふっと言った。
「知ってる? 中世フランスの貴族女性って、流行ファッションで胸を丸出しにしてたんだって」
すると女の子は内心「セクハラやん、度が過ぎたら出禁やん」と思いつつ曰く、
「もう、貴族さんのエッチ!」
そして冗談めかしてチョップを青年の首にえいっと入れると、入りどころが悪かったのか、せっかく転生したフランス最後の絶対君主ルイ十六世はまたしても断頭台にやられてこの世を去った。
(了)
そのコメディアンは、己のトーク力だけで人気者を目指そうとしていた。
彼―――桐野功太がコメディアンを志して、もう二十年になる。
国民的コメディアン・北森高文に憧れたことが、芸人を志したきっかけであった。
ただ彼には、「コミュニケーション能力」という決定的な弱点があった。
自分の笑いに絶対の自信を持っていたのはよかった。
問題は、通っていた養成所の講師の指摘に口答えするのは当たり前、同期の芸人の卵たちにネタのダメ出しをし続けていたことだ。
養成所の講師や芸人仲間、オーディションで出会う構成作家からのネタへの指摘も全く聞き入れない彼の笑いのスキルは、当然向上する
訳もなく。
結果として同期や後輩がどんどん大成していく状況下にあっても、彼がライブや番組で日の目を見ることは全くなかった。
一般的な芸人志望であれば、そんな状況になれば芸人を諦めて定職に就いているところだが、桐野功太は違った。
自分の笑いを理解しない、そんな社会の方が間違っているんだ。
そう考えた彼は、一つの強硬手段に出た。
テレビ番組をジャックし、強制的に自分のネタを公共の電波に乗せる、という強硬手段に、だ。
その日、彼は憧れの芸人・北森高文を誘拐した。
北森がお昼の帯番組の生放送に出演する、一時間前、桐野は持ち前の器用さで彼を拘束し、彼しか知らない密室に監禁。
番組スタッフたちに、彼を解放してほしくば番組放送枠の一時間で、自分のネタを放送しろ、という脅迫状を出した。
北森自身が電話でスタッフに話したこともあり、桐野の一時間分のネタは全国区のテレビで帯番組のスタジオを貸し切って放送された。
ネタさえ公共の電波に乗ればよかった桐野は、その直後抵抗一つせずにお縄となった。
問題はその後だった。
桐野が披露したネタの音声は、スタッフによってその全てに、放送禁止用語にかぶせられる【ピー音】がかぶせられていた。
結果釈放後、彼は【ピーの人】として一躍注目を浴びることになった。
本人の思惑とは裏腹に、彼は一躍人気芸人として、テレビやラジオに引っ張りだことなったのであった。
「あのピー音って、ネタが過激すぎたからかぶせたんですか?」
後に当時の若手スタッフが、放送直前スタッフに電話で自主規制音をかぶせることを指示した北森にその理由を聞いた。
「違う違う。あんまりつまらん芸人やから全部ピー音でかぶせた方がおいしかったんや。俺らにも、あいつにもな」
友達が猫になってしまったので、私が彼女を飼うことになった。
「あなたは、この猫の飼い主登録の第一番に指定されています」
猫を引取るために人猫変換施設へ行くと、妙に眉毛の太い女性の担当職員が現れて、いろいろ質問をされた。
「引取り主には経済状況を聞いています。失業などで収入は減っていませんか?」
「はい、ずっと同じ仕事を続けていますし、収入の証明書類もあります」
「では、猫になる前の彼女との関係は良好でしたか?」
「はい、概ね良好だったと思います。たまに喧嘩もしましたが、もう二十年も友達付き合いをしています」
「なるほど。では、あなたはこの猫を本当に飼いたいですか?」
「猫になる前の彼女と約束をしていましたので、この猫を飼うのは私しかいないと思っています……。ちなみに、飼い主登録をしている人には他にどんな人が?」
「それは、プライバシーに関わることなのでお答えできません」
担当職員は、太い眉毛を上下に動かしながらそう答える。
「あ、いえ、後でその、家族などの登録主とトラブルになるのは避けたいと思って、その」
「それは心配ありません。登録主はあなただけです」
「え、だったら、最初にそう……」
「プライバシーに関わることなのでお答えできません、というセリフを一度言ってみたかったもので、すみません」
担当職員はまた眉を上下に動かしたが、そういえば猫になった友達にも、無意味に眉を動かす癖があったなと私は思い出した。
私は手続きを無事に終えて、猫になった彼女を引取ることができた。
本当は人間のままの友達同士でいたかったし、彼女が猫になりたい、猫になった自分を飼って欲しいと相談してきたときは、いろいろ悩んで一カ月ぐらいはよく眠れなかった。
でも、何もすることのない昼下がり、猫になった彼女と一緒にソファでくつろいでいると、彼女は自分の幸せを見つけたのかもしれないなと思えた。
しかし五年後、猫になった彼女は寿命がきて死んでしまい、私の心に、ぽっかりと穴が開いた。
人猫変換施設へ行って、猫の死亡手続きの申請をすると、五年前の手続きで会った眉毛の太い女性職員が現れた。
「あなたのご心痛をお察しいたします。もし、あなたが猫になるなら、わたしがあなたを飼います」
「え?」
「わたし、猫喰い、という妖怪なのです……。というのは嘘ですが、実は、彼女はわたしの妹だったのです。猫になった妹の世話を最後までしてくれてありがとう」
一所に留まることを許されず、かと言え定められた範囲から外れることも許されぬまま、絶えず宙空にて弄ばれ続けていたビニール袋は、突如吹いた強風により電柱に叩きつけられ、そのまま張り付いて動かなくなった。風による介錯であった。そしてその電柱の傍に佇む一人の老人。老人はただじっとビニール袋の亡骸を眺めているように見えたが、その実その両眼は、電柱を隔てた遥か向こうの虚空を凝視していた。そこへ、サイレンの音と共に一台のセダンが近付いてくる。セダンはそのまま老人の横に停車した。運転手のこだわりなのか、車は異様なまでに老人の至近距離に停止し、その際に右のドアミラーが枯れ木の節ような老人の肘に僅かに接触した。そして左のドアが開くと、一切の無駄のない所作で屈強な男が2名飛び出してきた(右のドアは老人が邪魔で開けられなかったと思われる)。男の片方が「取り締まり警察です!」と叫び、もう片方の男が「私もそうです!」と続いた。取り締まりは警察の職務の一環であり、取り締まり警察なる肩書きは本来不可解であったが、老人は意に介さず依然として何もない前方へ視線を向けており、その間にも強風は吹き続けていた。しかし、先ほどまで執拗に同一方向へと吹きつけていた風の向きがわずかに変わった、その刹那、絶命したかに思われていたビニール袋がにわかに息を吹き返し、かと思うと予備動作なしの弾丸のような速度で彼方へと吹き飛んでいった。老人の瞳の中で、瞳孔が拡大と縮小を繰り返した。この老人の反応とビニール袋との因果関係は不明であったが、警察官の一人は意を決したように、腰に装着されたホルスターへと手を伸ばした。そしてもう一人の警察官はというと周囲を見渡し、ガムテープでバッテンが作られた家々の窓の数をおもむろに数えはじめた。1、2、3、4。そこまで数えたところで、乾いた破裂音が住宅街に響く。硝煙のにおい。5、6、7、8。男は、これを全て正確に数えなければならない衝動に駆られていた。衝動に理由はなかったが、しかし理由がないことにこそ、進んで従わなければならない気がしていた。これは、県警がこの男を採用した最も大きな理由であった。大きな力への疑いなき服従。しかしそれは、男が従う力を県警が管理できる前提での話に過ぎなかった。ビニール袋はすでに、誰の視界に入ることも叶わない場所へと連れ去られていた。
なんか面白い話してみてよ、というと、男は息子の野球大会に行った日のことを語りだした。それは海から少し離れた工業地域の合間にあるグラウンドで行われた、小学生を対象にした野球大会で、しかし参加チームは6チームのみのこじんまりとしたものだった。男は家族と持ってきた椅子に座り息子や同年代の子どもたちがぎこちなくプレーする姿を見ていた。天気は曇りだが、雲の向こうにぼんやりと太陽の輪郭がわかるくらいで、六月にもかかわらず湿気はなかった。保護者達は自分も含めて応援にはあまり熱が入っておらず、しかし周りに特にほかに何もないため、自分の子どもが出ない場面でもフィールドに視線を向けていた。風は心地よく、雲の向こうから差す日が温かく、雨も降りそうにもない。男は昼ご飯を食べた後ということもあり思春期前の子どもたちの掛け声を子守歌に眠ってしまった。
危ない、という声で目が覚めると、ファウルボールが転がりながらこちらに向かってくるところだった。とっさに伸ばした左手をはじいたボールは後ろに転がり、少年のすみませんでした、という声が遅れて届いた。じんと痛む左手の手のひらを振りながら問題ないことを伝え、集まっていた視線を散らした。試合は中学生のような体躯で速球を投げる少年が所属するチームが他を寄せ付けず優勝した。表彰式が行われる夕方になっても雲は晴れず、しかし過ごしやすい一日だった。
「いい一日だったんだね」
「そうなんだ。いい一日だった」
左手は大丈夫だったのかい? と聞こうとすると同時に男はテーブルの下から左手を持ち上げてテーブルの上に置いた。置いたというのは違った。男の左腕には手首から先がなかった。いや、なかったなんてことは前から知っていた。それがどれくらい前だったのだろう。この男に子どもができる前だったのだろうか、それはいつだろう。目の前で笑うこの男はそもそもいくつなのか。そしてなぜ笑っているのか。ただそれを指摘するとおそらく男は笑顔を顔ごと消してしまうだろうということはなんとなく分かっていた。部屋の空調はちょうどよかった。
「今日もちょうどいい温度だね」
「ああ、ちょうどいい塩梅だ」
男は面白い話をし終えた後に人が見せる満足気な笑みを崩さずこちらを見ていた。私は男に気付かれないようにうつむいて男の左手首を見ていた。それはとてもリアルな空っぽだった。
壇上の探偵は拡声器を手に声を張り上げた。
「この中にぃ〜!」
しかし、体育館は暇な高校生のざわめきで満ちていた。声は届かない。
「犯人はぁ〜!」
さらに声を張り上げた瞬間にピィィンと割れた音が飛び出して、
「……います」
反射的に小さくなった声は、完全にのまれて消えた。
教師達は生徒を鎮めようとしているが、どこか投げやりだ。静かにする気のない人間が数百人もいると、こうなるのが自然。とはいえ、それなりの進学校の生徒達が、たった一人の話もちゃんと聞けないことにイライラする。
真剣に話を聞いているのは俺だけだ。探偵の話を、犯人だけが聞いている。登場人物の民度の低さに俺は絶望する。
「この事件はぁ〜」
よし! 偉いぞ! がんばれ! 健気な探偵に思わずエールを送る。
「最初の被害者とぉ〜、二人目の被害者がぁ〜、被害にあった時間を偽装しぃ〜、犯行時刻を交換することでェ……」
不可能状況を作り、でもそれは、
「犯人の真の動機を覆い隠すためだった」
グゥゥーッド! そうなんだよ!
胸が熱くなる。理解される喜びに震える。
思わず周りを見回すが、はっとした顔は一つもなかった。雑談に夢中な奴、聞いているのかわからない奴、本を読んでいる奴……。
「犯人はぁ〜」
どこかで、どっと笑いが起こった。探偵はビクッと肩を震わせて、言葉を詰まらせた。
陽キャ共め。地獄で業火処分されながら内輪ノリの罪深さを思い知れ。
探偵は不安そうに周りを見回していたが、一度大きく息を吐くと、意を決したように叫んだ。
「犯人は――あなたです」
タイミングよく明りが消え、探偵の指の先を照明が照らした。グッジョブ! 演劇部照明係!
周囲の生徒が光を避けて移動し、立ちすくむ俺だけが残った。
光に手をかざし、壇上の探偵を見た。
少し涙ぐんでいるが、顎を引き、懸命に背すじを伸ばしている。
これは何の冗談ですか? 証拠は? あなたの説明には矛盾が二つある。
言うべきことはたくさんあり、俺は冷静で残虐な犯人として、この学校の馬鹿どもの目を覚まさせないといけなかった。
なのに、今、俺が一番やりたいのは、壇上に駆け上がって、探偵を抱きしめることだった。やったな、すごいよ、と言いたかった。
「うっ……う」
嗚咽がもれる。俺の情緒はもうダメになっている。でも、壇上の探偵の心配そうな顔を見ると、何か言わねばと思って、
「こ、これはなむのじょう」
かんだ。