第246期 #4
俺が昔、夜間施設警備で働いてた時の話だ。
俺がある晩、毎度のようにブツブツ独り言を言って見回ってると、どうも俺とは別の声がしたような気がして、俺は黙ったんだね。
すると、やっぱ聞こえる。微妙に聞こえる。俺以外の声が。俺以外には誰もいないはずなのに。そんで耳を澄ますと、しっかと「……恨めしい」って聞こえたんだよ! 俺の背後から!
これには俺も、びっくーってしたね! いやみんなビビるよあれは!(笑)
で俺も、まあ怖いんだけど何だろ、とにかく振り返ると、何かいるのよ! 人間じゃない感じのヤツが。何か半透明なヤツがさ。
これはもう、ホント血の気が引いたよ。初めて見たねあーゆーの……で? それで俺が固まってると、向こうがまたしゃべってきたんだわ。
「……おまえも夜勤か」。「も」って何? みたいな(笑)。最初はよく分からんかったけど、でもコミュニケーションできそうっていうか、夜勤に理解ありそうっていうか?(笑) 俺も少しラクになって。
ビビりながらも、そうだけど、アナタも夜勤なの? みたいに聞くと、「……そうだ」って答えがきて。更に、「……おまえも血色が悪いな」って言ってきて。
さっき言ったとおり、俺は血の気が引いてたわけだけど、それが無くても体調悪かったんだよね。不摂生と夜勤でボロッボロで(笑)。
だから、ハイ悪いです、みたいに答えたんだけど、何かだんだん、共感が形成されつつある気はしてた。
そしたらだよ、何と次は、「おまえも待遇が悪いのか」って言ってきて。俺の独り言聞かれてたのかよ! っていうかオマエ何なんだよ! っていう(笑)。
それで俺が、ハイ毎日大変です、みたいなことを言ったと思うけど、そしたら向こうが「……俺もだ……もう疲れた」って言い出して。それからも愚痴られたんだけど、どうも幽霊の世界でもブラック労働があるらしいんだな。で、ソイツはこう言い出した。「……疲れ切ったので、神主を呼んでほしい」。
俺も、しんみりと気の毒になってね。俺たち似てたからさ。俺も助けてやりたい気がして、神主を呼んでどうするんですか、みたいなことを一応確認したら、
「……神主が『払いたまえ〜』ってやってくれると、会社に未払い給与を払わせることができるんだよ」
で俺が、労基かよ! ってツッコんだら、アイツ満足そうな顔で消えてったね(笑)。ホント何だったんだろうねあれは……(笑)。
(了)