第246期 #3
あなたは屋上から飛び降りぎわに、笑顔でわたしに手を振った。
あなたは笑いながら、夜の海に身を投げてあっという間に見えなくなった。
水の入ったガラスのコップに白い粉をさらさらと落として、あなたはひと息にそれをあおってわたしに微笑んだ。そうして血を吐いて倒れて、そのまま動かなくなった。
わたしを抱きしめようとするようにこちらに手を伸ばして、あなたはそのままダンプの前にまろび出た。
物陰から飛び出してきた男の振り回す出刃包丁がわたしの服の裾を裂いて、わたしの皮膚のかわりに服を裂いた包丁とわたしの間におどり込んできたあなたのからだをその包丁が貫いたのを、あなたのからだが受け止めた衝撃をわたしははっきりと感じた。わたしに背を向けて包丁を受け止めたあなたが笑ったのをわたしは感じた。
あなたは、いつもいつもわたしの目の前で死んでいって、わたしはそのたびにびくんと体をこわばらせて、そのはずみで目が覚める。
顔も知らない現実では会ったことのないあなたはいつもいつもわたしの夢にでてきて、いつもいつもわたしの目の前で死んでいく。死にぎわの顔をまっすぐわたしに向けて、あなたはいつも笑顔でわたしに愛を告げる。