第245期 #8

宇宙駆逐艦ヨアケ

 廊下の奥に軍服を着た男が立っていた。
 薄暗くて顔がよく見えず、少し怖い気持ちだったが、私は廊下を通り抜けなければならない。
「おはようございます、艦長」
 忍び足で廊下を通り過ぎようとする私に、軍服の男は挨拶をした。
「いよいよ今日は、宇宙駆逐艦ヨアケの出航ですね。艦の名にふさわしく、空も朝日で輝いております」
 男の話によると私は軍の少佐で、宇宙駆逐艦の艦長らしい。
 まるで昔のアニメみたいだなと思いながら男の顔を見ていると、急にお腹が痛くなって、私はすぐ近くにある便所に駆け込んだ。
 用を足し、ほっと一息つきながら便所を出たら、廊下が急に未来的なデザインに変っており、窓には宇宙のような景色が広がっている。
「艦長! 作戦会議にも出ずに、いったいどこへ行っていたのですか!」
 今度は軍服を着た女性が、赤い顔をしながら私を怒鳴りつける。
「あと三分後に出航です! 早くブリッジへ来て下さい!」
 軍服の女性は、私の腕を引っ張って艦のブリッジへ連れて行き、艦長席に私を座らせた。
 ブリッジには、廊下で会った軍服の男や、計器類の前に座っているクルーが何人かいた。
「艦長、早く出航命令を! もう予定時刻から三十秒過ぎています!」

 宇宙駆逐艦ヨアケは何とか出航したが、目的空域に到着するまで一週間かかると言われた。
 私は暇でしょうがなく、艦長席のモニターでアニメを観ていたら、軍服の女性にまた怒られた。

「艦長、前方から敵艦が急速接近しています!」
 レーダー監視のクルーが突然そう告げると、ブリッジが一気に緊張し、艦内に警報音が鳴り響く。
「艦長、攻撃態勢の命令を!」
 軍服の女性はそう言うが、これって本当の戦争なの?
「そんな冗談はやめて下さい! 一刻を争う事態なのです!」
 逃げることはできないのかなあ?
「これだけ接近されたら、逃げることは不可能です!」
 じゃあ、話し合いは?
「それは政府のトップが決めることで、軍の命令で動いているわれわれがやることではありません!」
 本当にそうかなあ? だって人間同士なら話し合えば分かることもあるし、本当に死ぬかもしれない状況で、政府も軍も関係ないでしょ。
「敵は宇宙人で、人間ではありません!」
 でも、彼らだって知能や言葉があるから宇宙戦艦なんか作って戦争をするわけでしょ。われわれ人間と同じじゃないですか。
「今は、そんな哲学的な問答をしている状況ではありません!」
 そうかなあ?



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