第244期 #8
スマホに見覚えのない写真があった。
正面を向いた真顔の自分。なんだこれ、と一瞬悩みかけて思い出した。何日か前に実家の親からの電話で、たまには顔を見せろと説教されて、そんなら顔を見せてやろうじゃないかと普段は撮らない自撮りを何枚か撮ったんだった。送信して速攻で削除したつもりで消し忘れていたんだろう。選択して、消去。
それで終わりのはずだった。
数日後、また自撮りを見つけた。こんどはすこし顔を傾けて、横目でカメラを見ている。自撮り、だろうか。昨日同期と飲みに行って、最後の方はやや記憶が曖昧だ。写真を撮り合うような仲ではないが、背景は一緒に行った店の内装っぽくも見える。何かのはずみで撮ったか撮らせたかしたの、だろう。削除。
五枚目くらいから、数えるのをやめた。
いつ、だれが撮ったのか考えるのもやめた。ほとんど反射的に選択して、削除する。写真の中の表情がすこしずつやわらいでいっているのを、見ないふりで。
笑顔の写真があった。
選択して、削除……できなかった。カメラの向こうの相手に微笑む自分。お前はだれだ。だれに微笑んでいる。
「ああ、ここにいた」
知らない声に、振り返ったところにシャッター音。