第244期 #2
ピッと音がして、そのまま改札を抜けようとしたら何かにぶつかった。
「は?」
顔を上げると男の人だった。
そんなことある? 同じ改札にどっちからも入ってきちゃうなんてなくない? 前見てたのかよ?
チラッと男性のほうを見ると、同じようにこちらを見ていて、不服そうだった。
こっちだって不服よ!!
公園のベンチで同僚とお弁当を食べながら、今朝の出来事を話した。
「そんなことあんの〜」と面白そうに笑う同僚に、全く迷惑な話だよ、と返しながら唐揚げを口に運ぶ。お陰で今日は遅刻寸前でしたよ。
女性と歩くスーツ姿の男性が視界に入り、なんかあんな感じの色のスーツだったなぁと思う。
「でもさぁ」と同僚が言う。
降りた駅で乗ってきたということは、この辺に住んでいるとか会社があるかもしれないってことじゃない?
「じゃぁ、意外とあの人かもしれないね」なんて、女性とスーツ姿の男性の背中をふたりで見た。
「ちゃんと会社の車で……」
「今日さ、気になっていた女性にぶつかってみたんだよね」
話聞けよ!! って顔をしている秘書に今朝の出来事を話す。
「はぁ……」
またそんなことをして、と呆れ顔なのは見なくてもわかる。
「この辺の会社に勤めているんだって思うんだけど、どこかなぁ? わかる?」
「知りません」
ピシッと言われて、ボクは苦笑いを浮かべた。
「あっ」視界に入ったふたりの女性を見て、思わず声が出た。彼女だ。
「何見ているんですか?」ボクの視線の先を秘書は辿る。
「彼女達ですか?」
「そう」
嬉しそうに笑うボクに、面倒くさそうな顔を秘書は浮かべていた。
ボクは毎日彼女たちのいる公園に通った。
秘書が必死にスケジュールを調整してくれているお陰だ。
ある日、彼女がひとりでお弁当を食べていたので声をかけることにした。
「隣、良いですか?」
他にも空いているベンチがあるのに、なんで声をかけてきたんだ? という顔でボクの方を見る。
だって、キミと一度喋ってみたかったんだ。
一度しかぶつかってないけど、覚えていてくれているのかな? とかいろいろ思っていたんだけど、黙々とコンビニ弁当を食べただけで時間が過ぎて行った。
思い切って聞いてみることにした。
「明日も一緒にご飯食べても良いですか?」
完全に怪しい奴だと思われたみたいで、彼女は足早に去って行った。
それを遠くで見ていた秘書からメールが届いた。
バカですね
そう書かれていた。ごもっともです。
どうやって近づいたら良かったのかな……。