第243期 #5
美術部に誘ってくれたのは、何となく耳が尖っていて、いつも頭にくせ毛の立っている奴だった。
「君、何読んでるの?」
学校の近くにある本屋で漫画を立ち読みしていると、耳の尖ったそいつが覗き込んできた。
「ああ、ブラック・ジャックか。僕、全巻持ってるから貸してあげるよ」
いきなり話し掛けられた私は何と答えていいか分からず、あたふたしながらその場を立ち去ってしまった。
次の日、学校の昼休みに弁当を食べていると、昨日本屋で会ったそいつが教室にやってきて、大きなバッグを私の机の上に勢いよく置いた。
「昨日約束した、ブラック・ジャックの全二十五巻だ」
机の上に置かれた弁当は、大きなバッグの勢いで床に飛び散ってしまった。
「あ、ごめん。焼きそばパン食べる?」
私は三日かけて全巻を読み、昼休みにそいつのいる教室に行って、二十五冊の漫画が入った大きなバッグをそいつの机の上に叩きつけた。
「あーあ、僕の弁当、床に飛び散っちゃって」
焼きそばパンは人気が凄くて手に入らなかったけど、いなり寿司パンなら人気がないし、さっき売店で買ってきたばかりだけど、食べる?
「君のその仕返しの精神や、投げやりなセンスが面白い。それに、いなり寿司パンって何? パンにいなり寿司を挟むの?」
私も食べたことなんてない。
「とりあえず君は美術部に入るべきだし、君の入部手続きもすでに済ませてあるから」
私は放課後、強引に美術部の部室へ連行された。
「あれ、本当に連れて来ちゃったの?」
部室には数人ほどの生徒がいて、みんな私に無関心だったが、一番太った人が絵筆を置いて話し掛けてきた。
「まあ部活と言っても、みんな自由にやってるだけだし、来たいときに来ればいいから」
そんないい加減な部活があるのかと思ったが、放課後に毎日通いながら、私は〈いなり寿司パン〉をモチーフにした油絵を描いてみた。
「ふーん君、絵が上手いんだね。高校の美術展に出してみたら?」
こんな馬鹿げた絵を出しても恥をかくだけだと思ったが、そいつの言う通り出品してみると、なぜか県の最優秀作品に選ばれてしまった。
「ほらやっぱり、君には才能があるんだよ」
耳が尖ってくせ毛の立っているそいつは、誇らし気にそう言った。
私はふと、前から気になっていた疑問をそいつにぶつけてみた。
「まあ僕は宇宙人で、美術部なのに絵は下手糞。でも君は、僕のお気に入りなんだよね。それだけじゃダメなのかい?」