第242期 #8

絶望六人組

 何かが変わるかもしれないと思って、頭に麺を乗せてみることにした。
 茹でた麺をよく湯切りし、十分ほど冷まして頭に乗せると、麺がほんのり温かかった。
「そんな馬鹿なことをするより、僕にごはんを下さい」
 猫のピーターは、一カ月ぐらい前から言葉を喋るようになり、日に何度もごはんをくれと言ってくる。
「もぐもぐ……。一つ意見を言っておくと、もぐ……、部屋の中だけでそれやっても、きっと何も変らないよね」

 私は、ピーターの意見ももっともだなと思って、彼の頭を撫でてやったあと、麺を頭に乗せたまま外へ出てみることにした。
 数分ほど歩くと、道で何人かとすれ違ったが、特に私のことを気にする様子はなかった。
 麺の色は白いから、彼らは単に白い帽子でも被っていると思ったのかもしれない。
 だから私は麺をほぐして顔に垂れるようにして、麺の雰囲気を強調してみた。
 すると、私をチラ見する人が現れてきたが、やはりすぐに無関心な表情に戻っていく。
「ちょっとお兄さん、こっちに来て」
 気がづくと、私は繁華街まで来ていて、急に女性に腕を引っ張られて路地裏に連れて行かれた。
「街の人たちは大抵のことでは驚かないから、お兄さんが少し変なことをしても何も変わらないわ」
 まあ、そうかもしれないけど、私は一ミリでも世界を変えたかった。
「あたしも世界が変ってくれたらってよく思うけど、お兄さんの言う世界を変えるって、いったい何?」

 女性からの質問について考えていると、私はいつの間にか、どこかの部屋のソファに座っていた。
「お兄さんの姿があまりにも痛々しかったから、無理やり連れて来ちゃった」
 部屋の中には、さっきの女性の他にも何人か人がいた。
「頭に麺を乗せて世界を変えようなんて人間、俺は初めて見たぜ」
 目がギラギラで特殊な髪型をしている男性はそう言ったが、どうも苦手なタイプだなと私は思った。
「俺たちは世界を変えるために集まった、絶望六人組さ。一人死んだあとだったから、あんたを歓迎するぜ」
 部屋をよく見渡すと、窓辺に猫のピーターが鎮座していた。
「ピーターはあたしたちのリーダーで、あなたの飼い猫でもあったわね」
 私は、窓辺のピーターに詰め寄って、いったいどういうつもりなんだと問い正した。
「君は弱い人間だから、仲間が必要だと思ったんだ。世界を変えるとかどうかより、君の精神状態が心配になったんだよ。君が狂ったら、ごはんを貰えなくなるからね」



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