第240期 #2
ワガハイは猫である。
カイヌシはまだない。
カイヌシはいないが、いっときよく構ってきたニンゲンならいた。
散歩途中に出くわすと、慌てて鞄を探っていた。
ワガハイはニンゲンがナマグサい魚を干したカケラをビニール袋から取り出すのを待たずにとっとと逃げた。ワガハイは魚が嫌いなのである。ようやっと離乳するかしないかの目の青い若造の時分に喉に小骨を引っ掛けて死にかけて以来、あれは食い物ではなく罠に違いないと確信しているのである。魚屋の親父が気まぐれに投げて寄越すウレノコリにがっついているそんじょそこらの猫と十把一絡げにされるのは心外である。
ワガハイは肉派なのである。
ニンゲンはなにかというとワガハイにチョッカイをかけてきた。クチビルを突き出してちちちと音をたててみたり蜻蛉でも捕まえんとするかのように指をワガハイに向けてぐるぐると廻してみせたりした。
そんなニンゲンだが、日向ぼっこのときだけは手を出さずにワガハイを見ていた。日向ぼっこしながら微睡むワガハイを見ていた。
ある時微睡からさめるとニンゲンはいなかった。
それきりニンゲンの姿を見ない。
さて、ニンゲンが育てていた花を見に行くとするか。