第240期 #11

剝き身になったわたし

 お久しぶりです。別れたのはずいぶん前の話ですが、あなたと付き合っていた頃に西野カナをよく聴いていたせいか、西野カナの歌を耳にすると自然とあなたのことが思い出されます。
 あのときわたしは、あなたの気持ちを代弁してくれているという西野カナの曲を繰り返し聴くことで、うまくやっていくためのヒントを模索していたような気がします。

 あなたは付き合っているとき、わたしの全部を欲しがっていましたよね。
 時間、心、言葉、からだ……。
 あなたはわたしに、あなたを一番に優先することを求めると同時に、あなたはわたしを一番に優先してくれていました。とはいっても、わたしはあなたが求めていることに対して、うまくやれませんでしたけれど。
 価値観が違っていたせいで、わたしたちはなにかと衝突が多かったですが、あなたとぶつかり合っていたあの瞬間は、なににも代えがたい濃密な時間だったと思います。
 あなたには、よく散々なことをいわれていましたね。
 問い詰められて、わたしがどもりがちになると「あなたはアスペルガー症候群かもしれないから病院で検査してもらったほうがいい」といってきたり、わたしが熱心に取り組んでいた相談援助職の勉強に対して「あなたには向いていないから、相談援助職に就かないほうがいい」と一刀両断してきたり……。
 そんなあなたがくれた言葉のなかに、わたしが大事にしているものがあります。
 それは散々ラインで文字の殴り合いみたいな喧嘩をしたあとに、ぽっとくれた文字でした。

「あなたは話すより、書くことのほうが向いてるんだよ」

 わたしを完膚なきまでに論破することが趣味だったあなたが書き捨てた言葉を、わたしはお守りみたいにしながらいまも文章を書き続けています。
 あなたはそんなこと、知りもしなかったでしょうけれどね。



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