第24期 #23
沈みかけた太陽に向かって、ママチャリをこいでいると、橙色の中に溶けかかった白い塊が、二つ跳ねていた。近付いていくと、白い塊は、柔道着を着た五歳くらいの男の子たちだった。跳ねながら、きゃっきゃっと笑っている。松子さんが、ママチャリから威勢よく飛び降りると、彼らは「おおっ」と声を上げ、その後また、きゃっきゃっと笑ったので、真似してみるが同じ笑い声は出なかった。無理もない、もう三十二なのだ。
よく似た顔に身体つき、服装まで同じなら、動作まで同じような双子みたいな彼らを、松子さんは珍しそうに観察した。照らされたほっぺたが、柿のようで美味しそうだと思った。
「柔道、楽しい?」
松子さんが訊ねると、ほぼ同時に「楽しいよ」「楽しいよ」という二つの声が重なりながら返ってくる。
「おばちゃんは楽しい?」一人の子が聞いたので、もう一人の子も「楽しい?」と聞いてきた。瞳が真っ直ぐだったので、松子さんは少しだけたじろいだ。
つまらなそうな顔したまま黙っている松子さんを、つまらなそうに彼らは見ていたが、すぐに厭きてしまい、二人して話し始めた。
「早く来ないかな」「早く来ないかな」
誰かを待っているのだろうかと思ったが、松子さんは自分が楽しいと即答できなかったことについて考えていたので黙っていた。
「もうすぐ太陽が潜るよ」
「潜るね」
「潜る?」思わず松子さんは口出した。
「潜るんだよ、海の中に太陽が。朝になるまで息を止めているから、真っ赤になってブハッて出てくるんだよ」
「ブハッて出てくるんだよ」
松子さんは、夜の海中でひっそりと息を止めている太陽が、朝になって、もがきながらブハッと顔を出すところを想像して可笑しくなった。
「あ、来た」
「来た」
「来たって何が? 何が来たの?」
「波だよ」「波だよ」
「波?」
「ほら、もうすぐだよ。飛ばないと、飛ぶんだよ」
「飛ぶんだよ」
彼らにつられて松子さんも、ぴょんと飛んだ。
「また来たよ、ほら」
指差す方向をみると、たしかに橙色に照らされて輝いている波が見えた。ゆうるりとこちらへ向かってくる。
「飛ぶんだよ」「飛ぶんだよ」
「うん」
三人で、ぴょん、ぴょん、ぴょんと波の上を飛んだ。彼らは、飛んだ後、きゃっきゃっと笑ったので、松子さんも、きゃっきゃっと笑った。同じ笑い声だった。