第24期 #22

エンドレス

 有名な宇宙船エンドレスは、航行中の事故で爆発した。
 男は、奇跡的に難を逃れることができた。近くにあった水の惑星には小さな島がポツンとあり、不時着する。
 地球に似た風景にほっとした男は、小さな光線銃を持ち、右に広い海を、左に林を観ながら砂浜を歩き出した。
 しばらく歩くと、島の中央に続く道をみつけた。銃を握り締めて道を進む。
 男は林の中に小屋を発見し、狂喜した。この小屋の建て方は間違いなく地球人のものだ。 
 音もなく近づき、中の様子を伺った。そこには老人と、若い女が火を囲んで食事をしていた。男は戸を敲いた。
「宇宙旅行で遭難して、ここにいるのだ、助けてくれ」 
 老人は入れという。男は、小屋に入るなり食物を貪り、眠り込んだ。
 翌朝、目覚めた男は呟く。
「どうせ助けなど来やしない、俺の人生は終わったも同然だ。ならば、かわいそうだが老人を亡き者にして女を奪ったらどうだ。その方が残りの人生を有意義に過ごせるってもんだ」
 男は、魚を捕りに出かけた老人を追いかけ、銃を彼に向けた。
「悪く思うなよ」
 しかし老人は驚きもせず男の悪意を知っていた風な様子で、静かに言う。
「この時が来たか、長い間、君が来るのを待っていたのだ。私は死ぬ運命だから死ぬが、最愛の妻だけは、殺さないでやってはもらえないか」
「女は、俺が面倒をみてやる。安心して成仏してくれ」
 男は銃を老人に突きつけて、引き金を引いた。
 老人は満足気に微笑し、絶命した。
 男は小屋に引き返し、女を押し倒した。男はその感触に飛び上がった。
「女、ロボットだったのか」
 落胆が憎々しげに口から漏れた。
 男は感情のやり場をなくし、とっさに光線中を女に向けた。その美しいロボットは言う。
「奥様を、大事にしてあげてくださいね」
 無人島で、いったいどのように女を娶れというのだ。男はまたも、じっとりと濡れた引き金を引いた。

 高い木に登って大きな実を採って食べ、どうにか火を熾して浜の魚を焼いて食い、島の暮らしには慣れたが、男は堪え難い孤独に苛まれていた。あれからもう、何年経ったのだろう。
 ある日、浜辺に女の姿があった。男はやっと気狂いしそうなほどの孤独から解放された気がして、女に駆け寄る。
 女は言う。
「宇宙船が事故に会って、私だけ助かったようなのです」
 以前破壊した女型ロボットと、まったく同タイプであった。
 男は、震える声で宇宙船の名を訊く。
「エンドレス、でした」



Copyright © 2004 神差計一郎 / 編集: 短編