第24期 #2
落ちる 落ちる 落ちる
どれだけ落ちたのか、分からない。
上空を見上げたままだった体の体重を、うまく横にずらして体をくるんと反転させた。
ひろげた両腕と両脚が背中の方にのけぞった。髪の毛が逆立った。真っ赤なブカブカのTシャツと紺の半ズボンの裏側と体の間に入った風の塊が、バタバタと暴れている。正面を向く。「まっぶしい!」真っ白なソフトクリームのような巨大雲が視界を埋める。ソフトクリームはギラギラ太陽の光を浴びているけど、溶けることはないんだろう。その色に影は無い混じりけのない、純白だ。はじめて私は白という色を好きになった。そしてそのまま白にのまれた。沈んでいく。
しばらくして白を抜けた。世界が広がった。薄っすらと地上も見えた。おもいっきり、温かい風を感じた。遠い彼方、地平線の先まで海が見える。深い青い色が太陽の光を乱反射してキラキラ光っている。その輝く青からバァッと小柄なイルカが水しぶきを一杯に飛ばして飛び跳ねて太陽の光を浴びた。逆光でイルカは影となり見えない。刹那、海の中へ消えた。サァっと虹が海に架かった。私の心は躍った。もっとあの海を近くで見たい。体が自然に動いた。グルンと、横に一回転する、もう止められない。グルングルンと、私は空の上、落下しながら、ひとり踊った。
夕暮れが来たらしい、海の向こうに太陽が沈む瞬間は幻想的なんだね。今まで穏やかに沈んでいた夕日が、海と接する瞬間オレンジの光が弾けた。オレンジは次第に消えるとともに、暗くなってきた。薄い紫に飲み込まれ上を見上げればダイヤモンドのごとく、無数の星が輝いた。空は宇宙の様に無限の彼方を見せてくれた。空気が少し冷たくなってきた。もうすぐ、この景色ともお別れなのだな、と思った瞬間、急に寂しくなり、私は叫んでいた、心の底から。心の中の暗い気持ちがすべて解き放たれたような気分になった。気持ちいぃ…。
地面が見えてきた。終点か、そう思った瞬間に、ぼやけた地面はアスファルトへと変わった。更に落下するスピードは速くなった。え、と思った。と、同時になぜ私が落下していたかを思い出すことが出来た。「やだよ、怖い。こんなこと、しなきゃ良かったよ」後悔だけがポツンと浮かび上がった。
私は死ぬ瞬間を先送りして、天国を見ていたのかもしれない。
さようなら、ゴメンね…