第239期 #6

声が聞きたい

友達から結婚式の招待状が届いた。
一緒に入っていたメモに、ちゃんと一緒に来るように、と書いてあって、そういうのはあっちに言ってもらいたい。
テーブルの上にハガキを置いて、ベッドに横たわる。
あっちの方が先に結婚するんだな。
結婚することを考えていたこともある。その時は彼女と一緒にいたいって気持ちが強かったんだけど、結局彼女に結婚しようとは言えなかった。
自由に好きに生きている彼女が、自分とはどこか違う次元を生きているような気がして、自分の次元に縛り付けてはいけないと思った。別に結婚だけが全てじゃないしね、と半ば諦めに似た気持ちだった。
結果、今も彼女は自由だし、キラキラ輝いている。そんな彼女が好きだ。付き合っているはずだけど、なんか一方的に片思いしている気分だけど。
そもそも、彼女の頭の中に結婚という選択肢があるのか疑問だ。

テーブルに置いてあったスマホが鳴った。
発信者は新郎だ。
「もしもし、久しぶり。しょ……」
「ちょっと聞くんだけどさ……」
こちらの言葉を遮って、新郎は用件を伝えてきた。招待状が宛先不明で返ってきたらしい。
どこにいるか知らないかって話なんだけど、彼女の実家に聞いてもわからないことを知っているわけがない。
直近で喋ったのはいつだっけ? ってぐらいご無沙汰だし、最後に会ったのは1年以上前だ。
大きな溜息の後に「お前ら本当に大丈夫なの?」と言われた。
「大丈夫って何が?」
「結婚する気あんのかって話」
「そんな次元の話じゃないよね。そもそも、付き合ってんのかな〜って思うときもあるし」
言葉にしたらむなしくなった。
「また電話がかかってきたら聞いておくから」
かけても時差のせいか出てくんないし、番号普通に変わっていることあるんだよね。
多分、失くしたり壊したりして、適当な国で適当に契約してきちゃうんだろうな。
ちゃんと解約手続きしないと通信料金だけで恐ろしい金額になっちゃうから、って言うんだけど、実際はどうなのかな?

電話を切って、暫くスマホを眺めていた。
珍しく彼女の声が聞きたいと思った。
今話題に上がったから、なんか寂しくなったのかも。
時計を見る。出てくれないってわかっている。もしかしたら、また番号が変わっているかもしれない。
それでもいいんだ。
彼女の番号にダイヤルする。
呼び出し音を無意識に数える。
もう切ろうかなぁ、と思ったところで「もしもし」って声がして、急に世界が明るくなった気がした。



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