第23期 #8

ドール・ハンター

 こちらの言値を即金で払った女がいきなり人形にキスしたのを見て、骨董屋の主人は眉をひそめた。それが性人形であることは仕入れのときに確認してあったからだ。たしかにかわいらしい顔で、目を閉じて首をいくぶんそらせた立ち姿はキスを待っているように見えなくもないが、滅菌空気幕で覆ってあるとはいえ、店ざらしになっていた人形に口でふれる神経もわからない。
 十四、五の少女の姿をした人形は、女のくちづけにぴくりとまつげをふるわせて、そうしてゆっくりと目を開けた。淡い茶色の、人形を抱いている女とよく似た色の目をじっとのぞきこみながら、女が人形の腰をなでまわす。小柄な女は、それでも人形よりは頭半分ほど背が高く、人形がわずかに背をそらせると、そのちいさなからだは女のからだにぴたりと沿った。
 女の舌が人形の口の中にもぐりこみ、足が人形の足を割り、腰をすりつける。人形が鼻にかかった声をあげるに至って、さすがに店主は、もしかしたらこの女は店頭でセックスショーをおっぱじめる気かとあわてて声をかけた。
 「お客さん」
 ちゅ、と馬鹿にしたような音をたてて口をはなすと、女は人形の耳の下をするりとなめてから店主をみた。
 「これはここで造ったのか」
 「え」
 「型はここにあるのかと聞いている」
 人形の髪をあやしながら言われたことばに店主は一瞬ひるんだ。型をほしがるほどのマニアが来るとは思っていなかったからだ。
 「いいえ、うちは完成品を仕入れただけで、型まではありません」
 そうか、と女はつぶやくと、人形の背に添えていた腕をはずした。
 そしてなにごとか囁きかけて人形を座らせると、左手を肩に、右手を顎にかけてぐいと捻った。ぎぎぎ、ときしみをあげるのにかまわず女は力をこめ、やがて人形の首がぐきりと音をたててからだから外れた。
 「型を捜しているんだ。心当たりがあったら連絡をくれ」
 あっけにとられている店主に、投げるように名刺をよこすと、女は人形の首を片手に下げて店を出ようとした。
 「お客さん」
 「首だけでいいんだ、データ集積部だけで。ボディはそっちで処分してくれ」
 「いや、あの――」
 「私の恋人なんだよ、この子の型は。肖像権ってものがあるんでね。とっとと見つけて処分したいんだ。これ以上人形が造られるまえにね」
 人気があるらしくて、型のコピー品も出回っているあたり、たちが悪いのさ、と女は肩をすくめ、そうして店を出ていった。



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