第23期 #20

肉の果実

その病は、瞬く間に街を襲い、僕らはその餌食となった。僕らのお肉は、艶々と光を帯びて、おいしそうな匂いを放ち出した。果肉のように。「ああ食べたいわ、お肉が、貴方のお肉が」彼女がこういった時、僕は内心ぎくりとした。そういう僕も彼女のお肉をとても食べたがっていた。「ねぇ、いいでしょ」「うん・・・・しゃぶるだけなら」僕は膨らんでおいしそうな、右腕を彼女に差し出した。その右腕も、すでにたくさんの人によって噛み切られている所がある。実を言うと、自分も少し食べてみたことがある。彼女は舌を出して最初は控えめにそれからだんだんと大胆に。肉をしゃぶり出した。そして、痛いと思ったら僕の肘先の肉はガブリと噛み切られていた。白い肘骨が顔を出していた。
そんなこんなで、僕らの肉はほとんどなくなってしまった。つまり骸骨同然だ。そのころには既に僕たちの体は肉の果実しか受け付けなくなっていた。そこで仕方がないので、町衆たちがより集まって、地下に逃げのびた貴族たちの肉を食べようということになった。貴族たちは簡単に見つかった。貴族たちの顔をみんなおびえで引きつっていた。貴族たちに果物を食べさせようとしたとき。「ちょっと待ってよ」骨同然になった彼女だった。颯爽とした裸体(といえるかどうか)を日光にあてて彼女は言った「もっと肥え太らせた方がいいわ」「それもそうだね」貴族への飼育がはじまった。貴族たちは、すでに肥え太った体をこれ以上肥え太らせるのを酷く嫌がり、逃げ惑うが、みんなは容赦しない。フォアグラを作らされるガチョウみたいに彼らは首根っこを捕まれその喉にグビクビと餌を流し込まれていくのだった。特に痩せ型の少女などは見てられなかった。そんなある日である。僕らはあることに気がついた。どうもおかしい、貴族は果物になる病にはかからないらしいのだ。これは困ったことになった。しかしだからと言って、物を食わずには生きられない。僕らは彼らを生のお肉のまま食べることに決めた。そして、骨を残して食べてしまった。僕らはゲップをして休息した。食べたものは骨なので体をすり抜けて落ちていくのだが、それでもお腹いっぱいだ。その時である。「ああっ」と叫んだかと見る間に彼女とみんなの骨が何者かによって、齧られていった。僕も骨の髄が熱くなってきた。なるほど、貴族はろくな寄生虫を持っていやしないや。



Copyright © 2004 森栖流鐘 / 編集: 短編