第23期 #2

カワイコちゃんはトイレに行かない

カワイコちゃんはトイレに行かないとか。彼女はろくに食べもしない。

セロリとビールで生きていて皮膚から水分を蒸発させるだけ。



カードが回ってくる。2、4、6、8、10。イーブンナンバーズ。ポーカーでのスコアはゼロ。

疲労のジャブ。ラウンドスリー。フェザー級チャンピオンシップ。
当たる。痛い。命中。ヒット。疲労にぶたれている。相手のグラブは鉄板仕込み。俺のグラブはテデイベア。
通称、熊さん。柔らかさと“かわいらしさ”が売り。

カードを流す。2、4、6。流れていく。
新しいカード。見る気がしない。大して状況は良くならないから。

むかしむかし、ある所に負け犬がいたそうだ。今もいるそうだ。
カワイコちゃんが喋っている。
「あたしのこと好き?」
俺は言う。
「これは詩なんかじゃない。」
「え?」
「俺は詩なんかじゃない。」
「は?」
次に言わなければならない。ベイビー、訳の分からないカタカナ言葉で聞いてくれよ。
夕日に向かって駆けるのが負け犬の運命さ。
実際に言ってみる。すると笑い声。
「かっこ悪いとは一口に言いきれないわね。」
カワイコちゃんは声をたてて笑う。
新しいカードが回ってくる。彼女に見せる。
「いいじゃない。」
「え?」
「は?」
笑い声。
カードを見てみる。ツーペア。悪くない。

ラウンドフォー。そんなものはない。グラブを外して殴りかかる。叫び声。強姦で15年。いやいや、それはまずい。
負け犬は野獣ではない。美女と負け犬。野獣の方が良かったか。男は狼、いやだから俺は犬だったか。
テンとジャックのペア。テンが天使でジャックがジャック。どっちに向くかはあっち向いてホイ。
ホホイのホイホで彼女が笑う。何の冗談を言ったのだろう。

カワイコちゃんのポーカーフェイス。笑いを堪えている顔。子供を見つめるように笑みが洩れる。
「勝負だ、カワイコちゃん!」
「来い。イケ助くん。」
人生最大の茶番、いや賭け。カードをテーブルに広げる。
カワイコちゃんはじっとこちらのカードを見つめている。
「あたしの勝ちよ。」
と言いながら手札を見せてくれない。
「見せて。」
「いや。」
「見せなきゃ俺の勝ちだぞ。」
「あたしの勝ちよ。」
「じゃ、見せろ。」
「いや。」
沈黙が流れる。と、いきなり彼女は自分のカードとテーブルのデッキをこっちに投げつけた。
もう、めちゃめちゃだ。飛ぶカード、数々の可能性が散っていく。
「フルハウスだったの」
カワイコちゃんはセロリをかじりながら、ビールを飲み乾す。



Copyright © 2004 Shou / 編集: 短編