第23期 #14

人妻コンサルタント

人事マンの宮崎は、会社の合理化政策を推し進めるため同僚や先輩をリストラし続けた。社内では鉄面皮の宮崎と揶揄される。家庭でもそれは変わらなかった。宮崎は五年前、妻の淑子が逐電してやもめ暮らし。リストラが一旦終了すると今度は宮崎がリストラされた。何もする気が起きず部屋に引きこもる。貯金も底をつきかけたとき目に入った「人事コンサルタント募集」のちらしに飛びつく。疲れていたからなのか、そこは「人妻コンサルタント研究所」とある。所長の瀧沢は履歴書を読み、過去の結婚生活を宮崎から聞くとすぐに採用した。浮気調査、欲求不満解消、浮気アリバイ工作など人妻に関するあらゆることが仕事だった。数ヶ月して慣れてくると、会社設立の理由を瀧沢に聞いた。すると瀧沢はこの仕事しながら逃げられた奥さんを捜していると笑った。今回の依頼は山田という四十過ぎの男からの、帰宅の遅い妻が心配だから調査してほしい、というもの。尾行をするうちにその人妻の浮気の可能性が高いことが分かった。決定的証拠を掴もうと、十一月の酉の市詣でに向かうふたりを尾行することになった。境内の露店の陰にかくれている宮崎はあっと息を飲んだ。出て行った淑子が男と歩いていたのだ。しかも小さな男の子がふたりの間で手を繋いで歩いている。出て行ってから五年。子供は切れ長の目許が淑子にそっくりだった。笑顔の淑子を宮崎はファインダー越しに覗いていた。涙が知らぬ間に溢れていた。ふと気付くと人妻は男とはぐれ、きょろきょろと回りを見まわしていた。宮崎は背後から人妻に声をかけた。宮崎はもう終わりにした方がいいとカメラを示した。突然の出来事におろおろする人妻を尻目に宮崎はタクシーに女を乗せ山田の住所を告げて発車させた。結局、浮気の事実はないという報告書を上げて翌日会社を辞めた。そして、今幸せにしている淑子のことも諦めることにした。



Copyright © 2004 江口庸 / 編集: 短編