第228期 #7

世界の果てへようこそ

『何か変なものを作って世界を変えてみよう 世界大会』というものに出場したら、なぜか優勝して、一兆円の賞金を貰ってしまった。
 優勝カップを抱えながら会場を去ろうとすると、メディアの記者たちがわらわら集まってくる。
「数々の強豪を抑えて、今、優勝を手にしたご気分は?」
 変な気分です。
「あなたの作った変なもので、世界は本当に変わると思いますか?」
 そんなの、私に分かるはずがありません。
「優勝賞金である一兆円の使い道は?」

 自宅のアパートに帰って一息つき、缶ビールを飲みながらネットニュースを見ていたら、私の顔写真つきの記事がいくつも出ていた。
 次の日には、自宅のアパートがネットで特定されて、昼夜かまわずメディアの記者や野次馬が集まるようになった。
 他の住人にも迷惑をかけることになるので、私はリュックサックに最低限のものだけを詰めてアパートを飛び出した。

 それから私は、記者たちの尾行を巻きながら、目についた百円ショップで変身グッズを買って変身し、一番近くにある国際空港から飛行機に乗った。
 機内で十時間ほど過ごすと、私はある小さな島に到着したのだが、現地の空港でまず目についたのが、「世界の果てへようこそ」と書いてあるカラフルな看板だった。
 とりあえず外へ出て、地面にただぼんやりと座っていると、島の少女が私に話しかけてきた。
「あなたは人間の形をした石なの?」
 私は何と答えていいのか分からず、ただ苦笑いをした。
「ぜんぜん動かないから石かと思ったけど、人間なら、うちに来てごはんでも食べない?」

 その後、私は少女の家で食事や寝床を世話してもらうことになり、魚獲りの仕事などを手伝いながら、彼女の家族になんとなく溶け込んでいった。
「兄さんはあまり笑わないから、ときどき退屈になることがあるの」
 私は少女から兄さんと呼ばれている。
「だけど、兄さんがずっとここにいてくれるなら、それでもいいと思うの」
 私には、この家族にお礼するものが何もないので、賞金の一兆円が入っているであろう銀行通帳を、少女の祖父らしき老人に渡した。
 老人は首を傾げながら、長方形の通帳を三十秒ほど眺めたあと、それを神棚に供えてお祈りをした。

 あれから三十年経った今でも、銀行通帳は家の神棚に置かれたままだし、世界が変ったのかどうかも私には分からない。
 でも、何とか生きていけているので、大会に優勝したことはたぶん良かったのだと思う。



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