第227期 #6
ゴーヤを縦に切ったら、中から女の子が出てきた。
女の子の体は包丁で真っ二つに切れてしまい、私は悪いことをしたなと後悔した。
でも、ゴーヤ料理が出来上がる頃には女の子の体はくっついており、のんきにあくびをしている。
「おはよう、あたしはゴーヤ姫」と女の子は言った。「体を切られるときは結構痛かったけど、ゴーヤ姫というのは大抵、そうやって産まれてくるのよね」
私は何と言って謝ったらいいか分からなかったので、とりあえず、作ったばかりのゴーヤ料理を彼女に差し出した。
「もぐもぐ……、これは、ただゴーヤと卵を炒めて、塩コショウで味付けしただけの料理だけど、微かに残るゴーヤの青臭さに百点満点を差し上げます」
私は、真っ二つに切ってしまったゴーヤ姫と名乗る女の子が生きていただけで、嬉しかった。
なので、彼女の望むことを何でもしてあげたいという気持ちになっていた。
「あたし、アイドルになりたいの」
え?
「だから、あなたはマネージャーになって仕事を取ってきて」
私は、ネットでアイドルのなり方や仕事の取り方などを調べて、ライブの手配や動画配信などをやった。
「そんなあなたがおかげで、一年で超人気アイドルになってしまったから、次は自分の国を作ることにしたわ」
ええ?
「だから、あたしはゴーヤ姫国の国家元首であらせられるゴーヤ姫で、あなたはゴーヤ姫国の政治をやる首相になるの!」
私はアイドルのマネージャーから、ゴーヤ姫国の首相になり、ゴーヤ姫を守るために政治的に嫌なこと(敵対勢力への嫌がらせや要人暗殺など)を沢山やるはめになった。
「あなたは首相としてよく働いてくれたから、もう引退して、ゴーヤでも育てなさい」
首相になってから三十年後、ゴーヤ姫は、ゴーヤの種を一粒だけ渡すと私を首相から解任した。
その後、私はただの人間になり、首相の頃に貯めたお金で田舎に小さな家を買った。
ぼんやりと何も考えない日々を過ごしていたのだが、何年か過ぎたとき、姫からもらったゴーヤの種を思い出して庭に植えた。
ゴーヤは勝手に発芽して成長し、夏頃には大きな実を付けた。
私はゴーヤを収穫して、包丁で縦に切ってみたが、今度は中から誰かが出てくることは無かった。
「ほんとは、あたしに会いたかったのでしょ」
声のする方を振り返ると、ゴーヤ姫が食卓で頬杖をつきながらこちらを見ていた。
「あたしも姫をやめて、ただのゴーヤになることにしたから」