第227期 #5

夜の商いびと

 暑苦しい二つの太陽の光が地上から消えてしまうと、私たちは荷物を持って外に出る。私たちは夜に生きる種族の生き物で、夜から夜へと旅をしながら商いをする。
 「夜のない世界もあるみたいよ」
 顧客の店に酒を納品しに行くと、オーナーが内容物を点検しながらそう言う。
 「こないだ、うちに来た客が言ってた。太陽が一つしかない星があるんだって。それで、その星が太陽に向かってずっと同じ面を向け続けているとしたら。こんなふうに」
 オーナーは「こんなふうに」と言いながら、私たちに向かって掌を見せた。
 「そしたらね、あたしの側は永遠に続く夜。それで、あなたたちは永遠に続く昼のなかで生きることになる」
 私たちは触覚を触れ合わせて最後尾までその内容を伝達し合い、笑い合う。
 「昼のなかで生きるって、無理でしょう。暑すぎてとても耐えられない。私たちはすぐに絶えてしまいます」
 「あなたたち、太陽に弱いんだったね。光に当たると溶けちゃうんだっけ。いや、熱?」
 「両方ですね。私たちは昼には溶けて水溜になります。暗いところで夜を待ちます」
 「蒸発しちゃったりはしないの? あるいは、内部で生態系ができちゃったり」
 「夜になって個体化したときの数をいちいちかぞえることはありませんが、増えたり減ったりはしているようです。そういうものであれば、あなたの内部にもあるのでは?」
 「あ、わかっちゃった? もうすぐ生まれんのよ。お祝いしてくれる?」
 「新生児向けのペーストであれば、こちらに」
 私たちは連なったまま移動し、顧客のもとを訪ね、昼を徹して熟成させてきた数かずの飲食物を商いする。私たちが作る水溜は適度な発酵に都合がよい。私たちの商い品の評価は高い。
 おかげで私たちは、まだ生き存えている。
 商いを終え、太陽の光が射し込んでくる昼になると、外星からハンターがやってくる。この星に住まう希少種は、外星のコレクターの格好の餌食になる。だから、この星の生き物は、昼のあいだは擬態することを覚える。あるものは土に、あるものは草に。
 そして、私たちは水に。
 渇きを覚えたハンターたちは、時に水溜の水を汲み、口を付ける。私たちはそこから内部に入り込み、昼のあいだの新たな居を定める。暗闇で覆われた湿った世界をぞろぞろと這いながら、内部から少しずつ熟成させていく。
 次の夜になると、私たちはまた新たな商い口を求め、旅を続ける。



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