第227期 #4

うろ

 許されてる、許されている、そう心の中でつぶやきながら僕は瑛太を蹴り続ける。瑛太は止めて、止めてと言いながら、口の端に多分一生消えない引きつり笑いを残したままだ。
「お前のその笑い方が気持ち悪いんだよ、おらっ」
 みぞおちの辺りを思い切り蹴ると、クリーンヒット、瑛太は教室の端まで跳んでいった。格闘ゲームでこんなシーンを見たことあって、僕はますます興奮して瑛太との間合いを詰める。
「いけっ、コンボだ」
 同級生のギャラリーが操作レバーをまねする手振りで僕に呼びかける。僕は少しおどけてフィニッシュ前の「ため」の姿勢で少し止まる。3時間目のチャイムが鳴ったところで僕は拳を瑛太の顔面に振り下ろした。
「楽しかったね、瑛ちゃん」
 僕はそう言うと、おまけみたいに瑛太の頭をはたいた。瑛太の引きつり笑いは震えていた。

 放課後、保健室から出てくる瑛太を待ち伏せした。偶然を装って話しかけると、驚いた瑛太は頬傷の痛みに顔をゆがめるが、でもそれも一瞬で、細い目は笑って僕を捉えている。
「啓ちゃん」
「瑛ちゃん」
 僕はいつも昼間は瑛太を蹴り飛ばし、殴りつけたあと、放課後は仲良く肩を並べて帰ることにしている。そこで僕は昼間僕が加えた暴力の内容をひとつずつおさらいする。

「みぞおちの蹴りは痛かった?」
「痛かった」
「じゃあ最後の顔を殴ったのは?」
「痛かった」
「許してくれる?」
「うん」

 そうやって僕は毎日小遣いをせびるみたいに瑛太に許しを請うた。瑛太は昼間のことはまったく別の話だとでも言うように、一緒に映画を見ているような遠い目と口調で、僕が彼に加えた暴力について話した。そして彼の家の前に着いて瑛太にバイバイを言う前に、僕は決まってこう尋ねた。

「明日も瑛ちゃんのこと、殴っていい?」
 瑛太は一瞬悲しそうな顔をして、でもうん、ともうーん、とも取れるような曖昧な返事をして、バイバイをして扉の向こうに消える。その前に、僕は「ちょっと待って」と彼を引き留めた。

「瑛ちゃんはなんでいつも僕のことを許してくれるの?」
 瑛太は閉まりかけのドアを手で止めて、僕を見下ろした。僕はその目の奥に怒りを見つけようと穴が空くくらいに睨みつけた。その目の中に僕と同じ青暗い炎があるなら、僕はすぐにでも彼に泣いて土下座するのに、その目の奥はどこまでも深く、静かで、空虚だった。穴ならもう空いていた。目を離せと本能が叫ぶが、たぶんもう僕は動けない。



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