第227期 #3

桜の頃に

4ヶ月か…。指を折って数えるまでもない。
これでも長く続いた方なんだからさぁ?

窓の外に向かって言い訳してみても、誰も納得させることができないだろうということは予測できていた。いつもの3倍だるい体を引きずってバイトに向かう。今日は新人が入ってくる予定。美咲はその教育係だ。

習慣で早めに着いてしまった控え室には見知らぬ男の子が制服に着替えていた。美咲はわっ!と驚く声を飲み込んでバイトモードに切り替えた。

「今日から来る新人の子?よろしくね」
男の子は、
「よろしくお願いします。」
と静かに頭を下げた。

少し背の低いその男の子の名前は「楠木 裕也」と言った。仕事を覚えるのも早かった裕也は気づけばゆうちゃんと呼ばれ、バイト仲間にすんなり仲間入りしていた。

数ヶ月経ったある日のこと、バイト仲間の一人がにやにやとつついた。
「ゆうちゃんは彼女いるの?」
「いないね。あんまりいろいろ付き合うタイプじゃないし。俺、一人だけでいいんだ。」
「どういうこと?」
「自分にとってベストな人を見つかればいいってこと。条件はたくさんあるよ。でもその条件を満たす人がいれば他には誰もいらないんだ。俺、付き合ったら長いよ。まぁ今の段階で別れちゃってるから、見る目があるのかって言ったら違うかもしれないけど。はは。」
「わはは!かっこいいじゃん!」
裕也を取り巻いたバイト仲間達は賑やかに歓談していた。

上手く笑えなくなってしまった美咲は用事を作ってその場から離れた。ゆうちゃんからしてみれば私はとっかえひっかえでだらしない女なのかもしれない。なんだかとてもみじめだ。
私だって本当は長く付き合いたい。でも上手く恋愛が進められないの。相手の気持ちも自分の気持ちもどう扱ったらいいのか全然わからない。
美咲は泣きたくなったが、あと少しのところで涙をこらえた。気持ちを落ち着かせようと深く深呼吸をすると、そこに裕也がやってきた。
「どうかした?俺なんかまずいこと言ったかな。」
勘づいて来てくれたのだ。
「ううん、そんなことないよ。」
涙目の顔を見せないように美咲は少し視線を逸らした。
「そっか、美咲さんのお陰で早くここにも溶け込めたよ。いつも気兼ねなく話しかけてくれてありがとう。」
そう言って裕也は仕事に戻っていった。
もう一度深呼吸をして裕也の背中を思い出すと、美咲は少し強くなれた気がした。



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