第226期 #2
大事なことを忘れないように、メモに書きつけて貼りつけることにする。最初はほんの少し、数えるほどのメモだったから、毎朝起きたときに全部復唱して忘れないようにすることができた。でも、メモはどんどん増えていく一方で、捨ててもいいメモは一向に現れないから、毎朝毎朝どんどん復唱を続け、朝がどんどん長くなっていく。
ひとつひとつ文字にしようとするから面倒なことになるのだと思い、メモはやめて写真を撮って貼りつけることにする。これなら毎朝起きたときに見返すだけで復唱する手間が要らないから大丈夫だと考えた。でも、写真はやっぱりどんどん増え続けていく一方で、捨ててもいい写真なんかどれひとつとしてないから、毎朝毎朝見るだけのことさえ無理になっていって、朝がどんどん四方八方へと侵食し続けていく。
ひとつひとつ形にまとめようとするから厄介なことになるのだと思い、大事な今日をそのまま貼りつけることにした。そうして今日暮らしている自分(たち)が今日ごとあちらにもこちらにも貼りつけられるようになってどんどん増殖し続けていくことになり、さすがにこれはちょっと不便かもと貼りつけられた自分(たち)ごと考える。でも、大事なことが増殖し続けていくのは幸せなことだから、そのまま増え続けるに任せることにした。
すでに世界はずっと朝のまま、ここから抜け出すなんてことはもうできない。なんでもかんでも貼りつけて済まそうとした自分(たち)の所為だとも一瞬だけ考えたが、考えること自体が今日と一緒に増殖して折り重なるだけ折り重なってどんどん目詰まりを起こし続けることしかもうしない。そうしてあちらでもこちらでも大事な今日がどんどん詰まりに詰まっていって、処理しきれない朝が世界をどんどん覆うだけ覆っていってしまう。
ずっと朝のなかにいる自分(たち)は眠ることにも起きることにももう辿り着かない。大事な今日があちらからもこちらからも押し寄せ広がり続けぐるぐるぐるぐる折り重なりあらゆる空間に詰まり続けるなか、視界の端を邪魔するしっぽがずっと不快をもよおしている。でも、それに手を伸ばしたいと考える隙間さえもうまったくどこにも存在しない。
だから幸せにも世界はこの先ずっとつながり続けていく朝のなかに在り続け、もう絶対に破滅することはありません。