第225期 #3

僕のおこずかい

「200億円を盗み、姿を消していた山口健二がさきほど注目の強盗事件の話題です。一週間前、銀行から逮捕されたという事です」
 テレビのアナウンサーが言った。
 どうやら、この山口っていう男が、どこかの銀行のコンピューターに侵入して、200億円盗んで捕まったらしい。
 僕は家族みんなに向かって言った。
「この男、なかなかやるねぇ。盗むならやっぱりこれくらいの金額を盗まないと。まぁ、捕まっちゃたけど、200億はすごいよね、盗人の鏡だ。
誰も傷つけていないのも気に入った!
 でも、これだけコンピューター使えるほど頭イイなら他のところで頑張ればきっと成功したのにもったいないね」と。
  そして、その1時間後の別のニュース番組での事だ。アナウンサーが言った。
「ニュースを続けます。今日、コンビニ強盗に入った池崎正人が捕まりました」と。
「今日の午後2時ごろ、池崎正人が中区のコンビニに強盗に入り、ナイフで店員を脅し、レジから2万円を盗もうとしました。しかしその店員に逆に抑えこまれ、警察に通報、その場で現行犯逮捕されました」
「アホか?この男、たった2万円!?それで世間に名前と顔がテレビに流れちゃって。人生すべてを棒に振って。はずかしい限り。200億の男とは雲泥の差」と僕はあきれて言った。
 すると妻が僕に対しこう言った。
「あんた、来月からこずかい3000円減って7000円だからね」
「えっ!?どうして!?」
「圭子の塾代にお金がかかるからよ」
「いや、でも、いきなり7000円って、、、」
「仕方ないでしょ、全部あんたの稼ぎが少ないからだよ!あたしもパートで忙しいからね。文句言わないの!」

 コンビニ強盗の気持ちが少しだけ分かった僕だった。



Copyright © 2021 安留史貢(やすどめ しこう) / 編集: 短編