第225期 #2
大阪に住むFさんの話しだ。
Fさんは、当時付き合っていた彼女と遊園地に出かけた。
大阪府の北に位置する大きな遊園地だ。
開園から遊びに出かけた彼らは、15時頃には、目当てのアトラクションを乗りつくしたという。
「晩御飯の予約をしていたので、次で最後にしようという話になりました」
そこで2人が選んだのが、当時、テレビCMでも大々的に宣伝していた、人が演じるお化け屋敷だった。
某作家の某作品に登場する、孤島に建つ武家屋敷で起こる連続殺人事件をテーマにしていた。
30分程並び、後ろの親子と計4人で出発することになった。
作品の時代背景に合わせ、着物を纏ったスタッフに注意事項を説明されて、屋敷に足を踏み入れた。
「僕が先頭で進みました。単純に並んでいた順番ということで、そうなったと思います」
いくつかの部屋や廊下を通り過ぎて、次の部屋の入口に立ち、中を伺った。
「あれ、っと思いました。男の人が立っていたんです」
60代ぐらいの痩せた男だったそうだ。
「部屋の隅に置かれた、舞台装置の棺桶を覗き込んでいました。僕達に気がついたようで、顔だけこちらに向けましたが、すぐにまた元の体勢に戻りました。変わった演出だなと、そのときは思いました」
Fさん達は、その男に注意を向けながら、ゆっくりと部屋の端を進んだ。
すると、まったく別のところからお化けに扮した演者が飛び出してきた。それに追い立てられるように出口を抜けたという。
「彼女と帰りの電車の中で、その男の話しをしました。正体を推測しましたが、結論は出ませんでした」
Fさんは、アイスコーヒーを飲み干して続けた。
「ただ、2人の認識に違いがあったのです。彼女は、こちらを見た男の顔は怒っていたと言うのです。驚きました。僕には、笑っているように見えましたから」
Fさんは、そのことを彼女に伝えなかったという。
「表情の違いについては分かりませんが、やはり演者だったということは?」
私は、言った。
Fさんは、首を横に振った。
「それは、ないと思います。だって、その人の服装はポロシャツにスラックスで、手には中身の見えないビニル袋をぶら下げていたのですから」
その遊園地は、いまはもうない。