第225期 #1

家を育てる

 家の建て方は育て親から教わった。
 いいかい? と育て親は言った。
 (家を建てるときはまず土台を頑丈に。部屋はなるべく軽く。大風が来たときに、いつでも飛んでいけるように。そしていつでも何度でも戻ってきて、また新たな家を拵えられるように)
 そんなわけで、また新たに家を建てている。まずは残された土台をしっかりと点検して、さらに頑丈になるように組み上げる。そして、その上に部屋を載せていく。たくさんたくさん載せていく。
 部屋のつくり方は人によって違う。わたしも育て親がつくっていたそのままを受け継いではいない。
 けれども、育て親の教えは守っている。なるべく軽く。いつでも飛んでいけるように。
 近くの森に採集に行く。古い森の奥まで入り込み、枝にたくさん生っている小さくて丸い白色の袋を収穫する。
 持って帰ってきたそれに、細く丸めた木の葉のストローを指し、息を吹き込む。伸縮性のある袋は容易に膨らみ、膨らむにつれて色をなくしていき、どんどん透明に近づいていく。何度も休みながら息を入れていき、ほぼ一日で小さなテントほどの大きさになる。
 片手で軽く投げ上げられるぐらいに軽いその部屋を、土台の上に積み上げていく。晴天が続く間にできるだけたくさんの部屋をつくり、積み上げて積み上げて家を育てていく。
 今や半透明になった外部の膜のおかげで、部屋のなかはとても暖かい。それぞれの袋のなかには元の住人がおり、各部屋のなかでその子たちを育てながら日々を過ごす。
 そうして、その子たちに教える。いいかい? まずは土台を頑丈に。いつでも飛んでいけるように。そしていつでも何度でも戻ってこられるように。
 穏やかな日々は長くは続かない。昼夜絶えることなく大きな雨風に晒される日々がやってくると、部屋は抵抗することなく大風にのって飛んでいく。遠い遠いところまで部屋は旅を続ける。少しずつ少しずつ息を吐き出し、小さく小さくなりながら。
 片手ほどの大きさにまで収縮した部屋は、森の奥まで飛んでいき、大樹の枝に次の居を定める。長い旅のあいだに干からびて小さく収縮したわたしは、その袋のなかで丸くなる。
 子どもたちは育て親のつくっていたとおりの部屋はつくらない。けれども、ある日、誰かが見つける。この袋に息を吹き込むことで、新たな部屋が容易にできること。
 その日まで、目を閉じて待つのです。おやすみ。元気で。わたしの育てた子どもたち。



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