第224期 #6
引越しの荷物の中から、見知らぬフランス人形が出てきた。
「ここは日本なのだから、ボンジュールじゃなくて、こんにちはですね」
フランス人形は衣類に埋もれた体を起こし、青い瞳で私を見つめながらそう言った。
「突然のことでびっくりしているかもしれませんが、わたしにも色々と理由がありまして……」
彼女は、悪いフランス人形に追われていて、急に身を隠した場所が、ちょうど私の引越しの荷物だったということを説明した。
「そこでお願いがあるのですが、しばらくわたしを、この部屋でかくまって欲しいのです」
それから、数時間かけて荷物の整理を終えた頃、玄関のドアをコンコンと叩く音が聞こえた。
ドアを開けると誰も居ないので変だなと思いながら部屋に戻ると、黒い服のフランス人形がそこに立っていた。
「ここに青い瞳の女の子がいるはずなのだけど、あなた知らない?」
ああ、これが例の悪いフランス人形か、と思って部屋を見渡したが、最初に会ったフランス人形の姿は見当たらなかった。
「まあ、この部屋のどこかにいることは分かっているのだから、そのうち出てくるでしょ」
さらに三日後、近所のゴミ捨て場に行ったとき、私は、青い瞳のフランス人形がゴミの中に埋もれているのを見つけた。
「こんなぼろぼろの姿になってしまいましたが、またお会いできて嬉しいです」
仕方なく青い瞳のフランス人形を保護して部屋に戻ってくると、悪いフランス人形はこちらを一瞥し、素っ気ない態度でおかえりなさいと言った。
「せっかくその子を痛めつけて追い出したのに、また連れ帰ってくるとはね」
私はその言葉を聞いて溜息をついた後、悪いフランス人形を部屋から追い出した。
彼女たちの喧嘩に介入するつもりはなかったが、まずは安全を確保しなければならないと思ったからだ。
私は悪いフランス人形がいなくなると、ぼろぼろになった青い瞳のフランス人形の、服や体をキレイにしてやった。
彼女は私にお礼を言った後、ぜひ自分に名前を付けて欲しいと頼んできたので、適当に可愛い響きのする名前を付けてやった。
するとその瞬間、青い瞳のフランス人形は眩しい光に包まれながら体が変形していき、人間の女性の姿になった。
「わたしの封印を解いてくれて、ありがとう」
それは、どうも。
「実はわたし宇宙人で、地球を侵略するために派遣されたのですが、あなたは良い人なので宇宙人に改造してあげます……っていうのは嘘で」