第223期 #6
お前に、俺の気持ちがわかるか。
ようやく見つけた理想の子だった。
黒髪、笑顔、白い肌。しかも茶道部。
大和撫子じゃん。
間違いないと思った。
一世一代の告白をして、その最初のデートでまさかの彼女の秘密を知った。
舌に光るピアス。嘘だろ。
「俺は、騙されたんだ」
机にぷっつぷして嘆いていると、悪友の苦笑が降ってきた。
「まあでもそれは、しょうがないんじゃね?」
なんでだよ。しょうがなくないだろ。絶対おかしい。
あんなに清楚で従順そうなのに。
「こんな派手なクラスであのスタイル貫ける女が清楚で従順なわけないと思うけど」
悪友の言葉に思わず顔をあげると、視界の隅に彼女がいた。
やっぱり見とれる。
「お前はあれだ、あの隣の子。あの子とかどうよ」
最近つるんでるらしい子は、突然髪を黒くしだした。が、傷んだ髪はすでに色が抜けかけていてパサパサだ。
「ない。それにあの子、昇降口で俺睨まれた」
挨拶してやったのに。
「お前だって黒髪ちゃんのこと睨んでたじゃん。好きだからちゃんと返せないんだろ」
え?と俺はドキッとした。
数日後、髪パサと廊下で会った。
ぶつかりかけた俺をやっぱり睨んでくる。
一瞬考えて、俺は口を開いた。
「あのさ・・・あの子、舌ピしてるよ」
は?とその眉間にしわが寄る。
「見たんだよ、俺。あんなのして平気なヤツと一緒にいない方が・・・」
「平気・・・?」
呆然とつぶやいた後、ぎっとその目がつり上がった。
「んなわけないでしょ!」
えっ、と声を上げて俺はたじろいだ。なんだなんだと人が立ち止まる。
「つーかどっから目線なわけ?! あんた何様!?」
集まる人の中に、目をぱちくりさせた黒髪の彼女を見つけて俺はぎょっとする。
その時ぽんと、肩に手が乗った。振り返ると悪友がいた。
「ごめんね、こいつホント馬鹿で」
いい笑顔で俺を見る。
「いい加減にしろよ、このハゲ」
「誰がハゲだ」
まだ高校生だぞ。
「それに出っ歯だし」
「歯も出てねーから!」
「しかもチョビヒゲだし」
「どこにヒゲあんだよ!!」
無意味に言い合う俺たちに、ぷっと彼女が吹き出した。ひとしきり笑うと、あっけにとられていた髪パサの腕を引っ張って行ってしまった。
「お、はよう」
翌朝、昇降口で俺から初めて挨拶をした。
彼女は少し驚いた顔をしたが、いつものように笑ってくれた。
舌ピってマ?と話しかけてる悪友を横目に見ながら生まれ変わったような気持ちで教室に入った俺に、隠れチョビヒゲというあだ名が爆誕していた。