第222期 #3

ロボット化できないもの

「さて、これが当店のスタイルです。わかっていただけましたか。」
インターンの担当者が私たちに店の中を一通り案内してくれた。レジに立つ、ハンバーガーを作る、そのハンバーガーを注文した客に運ぶ、食器やトレーを洗う、その作業を担うのはすべてロボットだ。小さい頃の社会科見学で行った自動車工場みたいだと思った。
人口減少が進んでいく中、企業は様々な生き残り戦略を考えている。このファーストフード店は、店の中を全てロボットで賄う方法を選んだ。人からロボット、あるいは人工知能、AIへと置き換えを進めるのは当たり前になりつつあるが、すべてロボットの店、というのはまだ珍しい。例えば飲食店であれば、メニューのいくつかはどうしても人の手作業が必要だったり、あるいは最終確認のための人がいたり、ということが多い。まあ、人件費が高くなっている現状とファーストフード店の安い値段を維持することを考えたら、将来的には当然の流れになってくるのかもしれない。特にこのファーストフード店は値段の安さが長所の一つだから、うなずけることではある。
しかし、そうなると、このお店で私たちインターン生は何をすればよいのだろうか。
「ロボットの管理は誰がされているのですか。」
「本社の人工知能がすべて管理しています。その人工知能は幹部が最終確認するんですけどね。最後は人が見ます。」
会社によっては機械の誤作動防止や管理のために人を置いておくことがある。でも、今回のインターンの内容はそれとは違うようだ。
「あの、私たちのインターンの内容って、何をするのでしょうか。」
「うん。すでにご存じかと思いますけど、当店のメニュー表をご覧ください。」
子どもの頃から見てきた、おなじみのメニューだ。
「どうしてもロボット化できないメニューがあるんですよ。昔から当店では売りにしていたのですけど、それをロボットにさせると、どうしてもロボットの費用が高くなってしまってね。」
ハンバーガー、フライドポテト、ドリンク、サラダやアイスといったサイドメニュー…どれもロボットが扱っていたのをさっき見たような気がする。
「インターン生の皆さんには、当店の売りをしっかり理解してもらおうと思っています。」
「あの…申し訳ございません、どれを私たちは作るのでしょうか。」
「ここに書いてあるでしょう。作り方の説明は要りませんよね。」
担当者が指をさしたのはメニューの隅だった。
「スマイル0円」



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