第222期 #4

カレーと彼女

月末になると彼女はいつもカレーを作ってくれた。1Kの狭いキッチンで手際よく料理する彼女の後ろ姿は魅力的だったし、作ったカレーを笑顔で頬張る彼女も素敵だった。
「カレー作るの好きなら今度作りに来てよ。」
友人の結婚式の2次会で知り合った時に言った。当時は付き合ってた恋人とも別れて人肌恋しかったかもしれない。もちろん、本当に来るとは思っても見なかったが。
「月末ならいいよ。」彼女はそう言った。
「どうして月末?」初めてカレーを作ってくれた日に聞いてみた。
「私の家族はね、両親が共働きであまり家にいなかったし5人兄弟の私たちも家計を支えるためにバイトいっぱいしてたの。だから一家で食卓を囲むことはあまりなかった。でも月末だけはみんなで大好きなカレーを食べようって母が言って、それからは月末はカレーって決まってるの。」
それ以降、私と彼女は月末になると一緒にカレーを食べた。母から教わったというカレーはとても美味しかったしこの時間が私も好きだった。
ある日を境に彼女と会うことはなくなった。気が変わったのかどうかわからないけれど、今までの時間が幻のように思えた。
カレンダーを見る。今日は月末だ。



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