第221期 #8
世の中には、私を殺そうとする勢力が存在する。
それでも私が生きていられるのは、殺す勢力より、私を守る勢力の方が優勢だからだ。
「あなたは何も気にしなくて大丈夫」と、守る勢力の人は笑顔で私に言う。「あなたはただ、普通の学校生活を楽しめばいいのよ」
同じクラスの中にも、私を殺す勢力の人が何人かいるみたいだが、私はそれが誰なのか知らない。しかし、急に転校などでクラスから人がいなくなることがあるので、もしかしたら、勢力争いで誰かが犠牲になってしまったのでは……、と考えてしまうことがある。
きっと、何も知らないほうが幸せなのかもしれないが、何も知らない自分というのは実に間抜けだ。
私は、二つの勢力について色々考えてみたあと、自分の十七歳の誕生会を開くことに決めた。小学生みたいで恥ずかしかったが、誕生日だけでも二つの勢力が休戦して、一緒にお菓子を食べたりしながら、お互いの気持ちを話すことはできないものかと思ったからだ。
守る勢力の人にそのことを相談すると、うーんと唸りながら腕を組んだ。
「相手側にも一応打診してみるけど、どうなんだろう? 前例がないことだからね」
そんなわけで、誕生会のことはあまり期待していなかったのだが、意外なことに、相談してから三日後にオーケーが出た。
「セキュリティの問題もあるから、会の準備は全て我々に任せておいて」と、守る勢力の人は言った。「あなたは、誕生日を楽しみにしていてね」
誕生日の当日、私は学校の空き教室に連れて行かれた。
すでに生徒たちは、二つの勢力が向かい合わせに配置された席にそれぞれ座っており、私はその正面の真ん中の席に座らされた。
殺す勢力の席を見ると、一緒に昼ごはんを食べたり、掃除のときのゴミ捨てにいったりしたクラスメイトもいた。
「まずは、誕生日おめでとうございます」と、殺す勢力の人が言った。「今日は誰もあなたを殺しませんし、我々も、あなたを殺さなくていいのでホッとしています」
生徒たちから、軽い笑い声が漏れた。
「でも実は、我々には最初から、あなたを殺す気などありません」と、彼は続けた。「なぜなら、放っておいてもあなたはいつか死ぬからであり、このゲームは初めから我々の勝ちでなのです」
私はそのとき、とても間抜けな顔をしていたと思う。
「でも、勝ちが決まったゲームなんて退屈なので、殺す勢力は誕生会が開かれたことを機会に、本日をもって解体します」