第221期 #4
「神はいつでもあなたのことを見守ってくださいます」
公園のベンチで鳩に餌をやっているといつの間にか横に座っていた男が声を掛けてきた。
「おいでなさい、私たちの教会へ」
俺はポケットから一枚名刺を抜き取り両手で差し出す。男は名刺を受け取り、印字された会社名を見て、顔色を変えた。
「あなたは……サラ」
男が言い終わる前に俺は言葉を継ぐ。
「サラ金は、だいぶ昔の言い方ですね。手前どもでは、お客様を真理の高みに導くお手伝いという意味で、翔飛者金融を名乗っていますが、なかなか定着しませんね」
「……」
「まあ、名前などはどうでもよいのです。それより今の、神や、教会のお話、非常に興味深いのですが、続きをお聞かせいただけますでしょうか。融資を検討させていただくことができるかも知れません」
ためらいがちに、しかし強い言葉で、男は自身の属する教団の教理を話しだす。俺は手元の端末を操り、時折質問をはさみながら、項目ごとに点数化し、それに応じた融資可能額を提示する。
「お客様の信仰されている宗教ですが、大変尊く、そして希少価値も申し分ないです。よくぞ今まで信仰を守り抜いてこられました。早速お振り込みをいたしますが、口座番号をいただけますでしょうか」
男は自分の口座番号をしゃべりかけて口をつぐむ。俺はたたみかける。
「これは、神様や、お仲間を裏切るといった行為ではありません。あなたが今語られた教義は、あなたの血や肉となった、いわばあなた自身です。その姿に私どもは融資をさせていただく訳です。あなたの今のためらいは、むしろ逆にその信仰の価値を高めるものなのです」
言いながら俺は、先ほどの金額に5%積み増して見せる。今度は何の迷いもなく男は頷く。
「ありがとうございます。ご存じでしょうが、手前どもの融資には返済義務はございません。ほんの『お気持ち』だけで結構でございます。ところで、契約の成立したお客様には一部の融資を現金で行うこともできますが、いかがいたしましょう」
無言で手を差し出す男に札束を握らせる。そこに描かれた肖像と男の目とが合う。
男と別れ、俺は融資実績を社に報告する。俺のを含め、データ化された古今あらゆる宗教の分析結果が、共有の「真理」ファイルに更新される。日々軽くなるファイルサイズを見ながら、世界はまだまだ効率化できるという確信とともに、俺はこの会社で働くことに何物にも代えがたい喜びを感じるのだ。