第221期 #3

むぎちょこ

私は麦チョコを食べようとしてえいやと口に放り込む。しかしどうして不思議なことに麦チョコは口に入る前に消えてしまう。味もしなけりゃ下にあたる感触すらない。いやいやそんなこと起こるわけがない。たまらずもう一粒。またもう一粒。もう一声の一粒。何度も何度も繰り返す。しかしそのすべての場合において麦チョコは消えてしまう。
いやはやおかしなことだ。いったいどうなっているのだ。
私は頭にきて麦チョコの袋をガッと掴み口元に近づけひっくり返す。大量のむぎちょこが下方向に向かってなだれ込んでいくのが見える。その先は大きく開かれた今か今かと待っている口の穴。しめた。これなら確実に麦チョコをお頬張れるはずだ。しかし私の期待は全く持って外れた。いやむしろ予想通りですらあったかもしれない。やはり麦チョコの味も感触もせず、変わらずあんぐり口を開けた自分がいるだけだった。私は目の前の奇怪な光景に渋々納得のいく理論を付けた。そうだ。きっとこれは消える麦チョコなのだ。まったく物が完全に消えるなど到底信じられないが、起きてしまったのだからしょうがない。
そうだ。前向きにとらえよう。これを一つ、どこかの科学者だか研究者に見せてやったら奴らは腰を抜けて驚くに違いない。そして、これを渡すのと引き換えに、金でもいくらかせしめてやろう。ふふ。完璧な計画に思わず笑みがこぼれる。
さ、それじゃあ、金に交換する前にしっかり保管しといてやらないとな。私はそう言って麦チョコの袋をのぞき込む。
そこにあったのは麦チョコも何も入っていない空っぽの袋のみだった。



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