第220期 #2
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
教室の隅で吉田くんが足蹴にされて泣いている。
何か悪い事でもしたのだろうか。強いてあげれば今日ものこのこと登校してきてしまったことくらいだろう。
授業の合間の5分間でさえ彼は今日も自分の人生を全うしているのだ。
そんな生命の輝きに侮蔑と羨望の視線を送り、誰にも気付かれないようそっと校舎を抜け出す。
高校から10分もしないところに婆ちゃんの家がある。
「学校、サボっちゃった。」
縁側のミイラがゆっくりとこちらに首を動かす。
「かぶらの漬けたの食べるかい。」
苦い番茶を啜り、庭に生えた名前もない花に目をやる。彼らでさえ生きている喜びをこちらに主張してくる。
俺だってここにいるぞ。口の中はポリポリなっているので心で叫ぶ。横にいるミイラにはっきりと言ってやる。
「婆ちゃん、俺やっぱりお茶には甘いもんがいいな。」
「そうかい。」
吹いた風の暖かさで明日も生きていけそうな気分になった。