第22期 #9

首狩大名

とあるところに首狩大名。三日に一度は領内の、かはいゝ子供をひつ捕らへ、その首じよきりと切り取つた。
さても鬼畜の所業なり、泰西青髭凌ぐほど。 とあるところに少女が一人。首狩大名が領地、旅の序でに訪れてみた。
少女の見目は麗しき。大名早速目をつけて、部下を引きつれその元に。
 「おまへの首があゝ、慾しい。どうか讓つてはくれんかな。それでもだめと言ふのなら、力ずくでも取らうもの」
少女はしかし、首を振り。 
 「妾と腕の相撲取り、勝つたらこの首くれてやらう」
大名勇んで、
 「戲け者。お主がやうなか弱き乙女に、幾戰場を驅け拔けて戰の首とりした儂に、勝てるんなどゝは笑止千萬。早速勝負してやらう」 かうして袖を捲り上げ、筋骨隆々たるその腕、少女の白き細腕をがつちと掴み、相對峙す、もはや勝負や見えたよな、ものではあるが、群臣もさすがに少女に哀れなる、心を起こしてをりました。
ところがどうだ、首狩大名、額から出る玉の汗。
 少女の腕を倒すどころか、逆に自分が倒された。
 少女は莞爾。大名の、呆けた顏の隙を見て、その太刀奪ひ、鞘から白刄取り出し、大名のぼんのくぼ目掛け、ぶすりと太刀を振り下ろす。
 大名ひと聲「あ・・・」と言ひ、後に殘つた自分の體。じつと見つめて息絶えた。
 その顏、至極恍惚の顏。
自分の首を切ることは、一度もやらず首切大名。その本當の幸せをとても知ることできなんだ。
 しかし今少女のおかげ、自分の首を切ることの喜び知つた首狩大名。
 並み居る群臣即鞍替へ。それから後はその少女を首狩大名と仰いだが、少女は僅か三日間滯在したゞけ、
 「ぢやあね」
 と、一言言つたかと思ふと、
千里の果てへ驅け去つた。



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