第22期 #6
「私が涙ぐむことは全くない。涙を分泌することはあるかもしれない、生理的にだね。しかしちょっと考えてもみたまえ。挑戦に応じるがね、村山顧問。私は君みたいなぶしつけ者ではないがね、それでも男のつもりだよ。老廃物を体から排出しない者がこの場にいたら発言したまえ。以上だ。」
みだれ髪の顧問が自分の席に付くとすぐ隣の興奮した年配の顧問が立ちあがった。周りの顧問はお互いの言葉に耳を傾けようとはせず書類を持って席から席へと駆け回る男の子に何か大声で叫んでいた。
議長は息子の外泊許可書を睨みながら何やら唸っていたが、次の顧問に発言するよう促した。するとまるで主題からそれた議論のようにレーザーが議長を直撃した。顧問の一人がキーホルダーのレーザーをいたずらに辺りに遊ばせていたのだ。議長は深く唸り、レーザーをしまうようにと命じた。するとつい先ほど発言したみだれ髪の顧問が独占的に立ちあがり、何やら喚き始めた。発言を許されていた顧問はにわかに不機嫌になり二人は言い争いを始めたが、背後の叫び声でその内容が何かまでは分からないのだった。
興奮が漸増する中、議長は木槌を自分の机に叩きつけて叫んだ。
「何も聞こえません。発言する顧問は自分の番を待ってから発言するようにして下さい。では山村顧問どうぞ。」
不機嫌になった年配の顧問は興奮に息を切らせながら、ぎざぎざな声で話始めた。
「いいですか、もはや疑問の余地はない。田山顧問は実際に涙を流し、それはそれで事実なのです。男は感情というものをこ…」
山村顧問がそこまで言うと保守的な年配の馬鹿めという声が上がり、次々に我々はどこにも行ってないぞという声があちこちから上がるのだった。山村顧問は顔を真っ赤にしながら続けようとしたが議長が木槌を叩きつけた。
「議論はここまで。最後に投票をします。コンピューターに提案への賛成か反論をインプットして下さい。」
部屋は静かになり、一列ずつ並ぶコンピューターに向かう顧問達の汗が、涙と混じって黒く光るのだった。
「投票の結果が出ました。賛成1票。反対1票。残りの発声投票37票は認められません。それでは、これにて」
部屋は拳を振り上げる顧問や怒号から部屋を逃げる顧問でろうばいにつつまれた。キーホルダーのレーザーを手にした顧問がレーザーを議長の目に当てようとしたころにはすでに呼ばれてもいない機動隊なのか、催涙ガスだという叫び声が背後から聞こえてきた。