第22期 #20
うーん、まいりましたね。
「タイタニック=手垢まみれ」というのが世間の相場じゃありませんか。
しかもタイタニックのことなんて、沈没した豪華客船らしいってことぐらいしか知りません。もちろん映画なんか観てないし、観る気もありません。
……でもまあ、少し時間を下さい。なんとか話してみましょう。
「ねえ、あなた。もしもの話だけど、私たち夫婦と娘が、タイタニックに乗ってたとするでしょ」
「なんだよ、いきなり」
「いいからきいて。でね、船が沈没して、三人は必死で救命ボートに辿り着くんだけど、人がいっぱいで、どんなに場所を詰めても、あと二人しか乗れないの。……こんな状況だったら、あなたならどうする?」
暇を持て余している奥さんと、そんな話になったとします。あなたが奥さんの立場なら、ご主人にそんな話をしてみたとしましょう。あなたが独身なら、運命の悪戯で結婚してしまったと仮定して考えてみてください。
どう答えれば、奥さんを最高に喜ばせられると思いますか? あなたが女性なら、どんな答えが一番嬉しいですか? ちょっと考えてみてください。
「……しょうがない。俺が犠牲になるしかないな」
素晴らしい愛ですな!
いやいや、これで良しとしてしまっては、陳腐ではない話をしろという指令に反してしまいます。そもそも、自己犠牲のポーズ丸出しで、ちょっと偽善の臭いもしますしね。
というわけで、最高の答えは、たぶんこうでしょう。
「もちろん、三人とも助かるさ。……悪いが、先に乗ってたうちの誰かに犠牲になってもらう」
さて、今度は逆に、最悪の答えというものも考えてみましょう。
先にも述べましたが、陳腐ではない話をしなければならないという指令があって、それは遵守しているつもりですのでご注意ください。たぶんあなたが最初に考えた答え……と、二番目に思いついた答えも、陳腐の範疇ではないかと憶測します。
では、ちょっと考えてみてください。
「お前を犠牲にして、俺と娘が助かる」
「娘を犠牲にして、俺とお前が助かる」
いやはや、確かに非常に感じ悪いですし、離婚の原因にもなりかねません。最悪かつバカ正直な答えですな。そして見事なまでに陳腐!
よくよく考えてみれば、もっと最悪な答えはあるんです。
このようなシチュエーションで考えられる最低最悪な答えは、たったひとつ。それはつまりこれでしょう。
「はあ? つまらんことをきくなよ。ばかばかしい」