第22期 #19
関西の夏は暑い。暑くするのが夏の仕事なのだからそれは当然なのだけれど。
ぽーん、と音が鳴って、続いて三桁の番号が呼ばれる。アタシは自分の持っていた番号札を確認して眉をひそめた。手が汗まみれ。
ハローワークの夏は暑い。
いつの間にか紹介状を握らされてソファに腰掛けている自分がいた。ぼけっと人ごみを眺めていると、老若男女が熱気でむんむんしながら求人検索ディスプレイを指で連打している。相談コーナーに座っているご婦人がけたたましいぐらいの高い声で我が身の不幸を語っており、うねるような人の波が公共職業訓練窓口にも失業保険窓口にも絶えない。目の前の光景がまるで蜃気楼のようで、アタシは頭がくらくらした。クーラーが効いているのに、暑くて足元がおぼつかない。
これ全部、前の会社の給料の低さが悪いね。ボーナスなかったし。
そう考え階段へ逃げるように歩き出した。その際、手に持っていた紹介状をリュックにしまう。履歴書や職務経歴書の書類選考なんて落とされたらイヤだよね送るの面倒だしね、と泣き言を抱えながら酸素をむさぼった。美味しくてしんどい。
一階に降りると、求人広告を出そうとする会社の人たちが自動ドア越しに見えた。ああ逆の立場でも忙しいのだ暑いのだ、アタシは同じ立場だったからよく分かるよ、とひとしきり頷く。そして、あそこにいる人たちと今のアタシとの違いは、この自動ドアを越えられるか越えられないかというそれだけのことかもしれないね、としばらくぼんやりしていた。
さあお腹すいているけど節約節約、ご飯は家まで我慢かしら、と算段をつけていたところで自動ドアの向こうの一人と目が合った。途端に逃げ出したくなる。何かを思いつく前に、ドアの奥から現れる彼女。どうしてこんなところにいるんですか、と口を開くアタシの後任者。いやあどうしてと言われたって仕事探しですよ、それ以外何があるよ、とうじうじしながら口を開いたのだけれど、そうそうちょっと聞いてくださいよ、の声の大きさに全てお流れ。
私、あの会社辞めるんですよねー。だって給料安すぎですよホントに。ボーナスないし。
アタシは嘆息した。ああこれがループ。ずっと続いていく世の定め。夏の太陽は容赦なくアタシと彼女を照り付け、いじけた気持ちを更に強める。アタシは枯れ果てたように、とにかく暑いと呟いた。