第218期 #7
3人は毎日同じ時間に同じチャットルームに集まっては、身の回りの出来事や恋の話なんかをしていた。1人はこの物語の主人公サキ、もう1人はマイ、そして空だ。
ある日の恋バナ。マイが「毎日会うのはちょっとね」と言うと「週3でいいよな」と空が続く。サキが「えー!毎日会いたいよ!」と言っても、マイも空も「毎日はねぇ」「毎日はなぁ」と首を傾げる。恋愛の話になると決まってマイと空はタッグを組んだ。それがいつものパターンだ。
サキは、空がマイに好意があると勘ぐっていた。サキは空が気になっていたが、マイへの気持ちがあるならと友人関係を続けることを決めていた。
しかし、そんな遊びもいつの日か減って、3人が顔を合わせることは無くなっていった。
10年後。
27才になったサキはふと人恋しくなりチャットルームを探したが、その類のほとんどが無くなってしまっていることに気がついた。寂しさを感じながらやっと見つけた場所は、サキのように行き場を無くした人たちが懐かしむように歓談していた。サキはその中の一つの部屋に「りん」という名前で入り、そこにいた女の子としばらく2人で話していた。
すると、部屋に誰かが入ってきた。
「空」だ。
サキは一瞬、あの「空」であることを期待したが、過ぎた年月とありがちなその名前に、そんなわけがないと自分の思いを打ち消した。
一通り挨拶を済ませ、サキはふと懐かしむように打ち明けた。
「前にこういうサイトで空って名前の男の子に会ったよ。あと一人女の子がいて3人で仲が良かったんだけど、たぶん空はその子が好きだったんだと思う。私は空が好きだったな」
すると、その「空」は「私は女だしね」と言った。そうだよね、とサキは寂しい気持ちになった。「空」はこう続けた。
「私も昔チャットルームで好きな人がいたの。自分の意見を持っている人で、同調すればいいのにって場面でもいつも曲げずに自分の意見をはっきりと言ってた。すごくかっこよかったのよ」
サキはその物言いに違和感を感じた。
これって私?空が言ってるみたい…あの空だ!
嬉しさと驚きでサキは胸がいっぱいになった。空は続けた。
「今は私も別の人と結婚しちゃったけどね。今日は洗濯物がよく乾いたな♪」
大げさな小芝居にサキは画面の前で吹き出した。
なるほど、結婚ね。
「今日は純粋な気持ちが取り戻せた気がするよ」
空はその場を去っていった。
何も残らない筈の空間には確かに2人の想いが刻まれていた。